GM:(これで想定していたエネミーは分断されるな)
では作戦の決行日。人買い集団のアジト前です。皆さん3名はアジトから後方に数メートル離れた地点。応援の銃士隊の仲間や小者達はそのはるか後方を固めているとお考え下さい。それから、入り口にはやっぱり槍を抱えた見張りが立ってますよ。
レオン:洞窟の周辺は事前に調査していると言うことで良いんですね?
GM:はい。問題ありません。
バジル:見張りの人数は?
GM:1人です。ただ、一発でもぶっ放すと気付かれてしまうでしょうね。
レオン:では一発撃ってみましょう。見張りをおびき出せたらめっけもんだ。
レイ:でも警戒して洞窟にこもられたら面倒じゃないですか?
レオン:その場合は見張りだけ倒して煙でも流し込んでやりましょう。別の出口があるなら逃げられますが、事前に周囲は調べていますし、我々が知らない出口があるなら正攻法で攻めても同じことです。
GM:補足すると、周囲の街道は銃士や騎士を配置して警戒させてますので、この場を逃れても国外逃亡はかなり難しいでしょう。
バジル:そこまでやるのか。
GM:皆さんがエトワールを巻き込んだおかげで、事件は政治的な案件に格上げされましたので。
後援者である王弟ケストナーとしては、ここで「銃士隊と赤枝の騎士団は相互に補完する関係」と言う建前を証明するまたとない機会です。騎士団のルーシディティ団長にしても、銃士隊と仲間同士でギクシャクしてると言うマイナスイメージを払拭できます。
あと同一の案件に対し、協調して意思疎通しておくのは双方にとって有益ですし。
つまり、本件は政治的にも絶対失敗できません。
バジル:なるほど。まあ、俺たちは目の前の仕事をしよう。
レオンはポーチから親指サイズの紙の包みを取り出し、先端を食いちぎってマスケットの銃口に押し込む。弾丸と火薬が入った所謂「早合」で、ジュリアーノ商会が東方のダイワ群島国から輸入した良質の紙が使われている。これのおかげでマスケット銃の発射間隔は飛躍的に速まった。
続いてベルトから陶器製の容器を外し、中の黒色火薬を火皿に振りかけた。
火薬や火打石が湿っていないか丁寧に確認すると、ハンマーを起こし、トリガーに指をかける。
轟音の後、肩を押さえてうずくまる見張りが居た。
「襲撃だ!」
剣を抱えて飛び出して来た賊を、今度はバジルが撃ち倒す。
続いてわらわらと出てくる人買い集団を前に、レオンは狙撃だけでは間に合わないと判断した。
「隊長!」
バジルは呼びかけだけでレオンの意図を察したようだ、「ここは任せて行け!」と怒鳴り返し、マスケット銃を肩付けする。
その時にはレオンはレイピアを抜いて賊に躍りかかっていた。足を突かれた賊が悲鳴を上げて大地に転がる。
引き続いて飛び出したレイも、走りながらの射撃と言う高等テクニックでひとりを撃ち倒す。
レオンの背後をとった賊がメイスを振り上げるが、それは光の壁に阻まれた。バジルの神聖魔法〔プロテクション〕だ。
攻撃を免れたレオンは身体を横にして、後方からの射線を確保する。
後ろに控えていたレイがすかさず魔導銃を発砲。賊はメイスを取り落とす。
援護の銃士たちも次々と茂みを出て、包囲を狭めてゆく。
「手柄を焦るな、確保はバジル隊に任せて、囲いを作るんだ! 賊を逃がさなければ、こちらの勝利は疑いない!」
指揮を執るのはユーリだ。
よく分かっているとレオンは頭の冷静な部分で彼を評価する。
銃士隊のような実力主義の組織はスタンドプレーが怖い。不要な突撃で包囲に穴が開き、万一賊を取り逃がさないとは限らない。人数で勝っていようともだ。
逆に言えば、そこだけ押さえておけばこの状況で敗北はありえない。
最後のひとりに縄をかけた時、場が騒然となる。
洞窟の中から、火縄式のピストールを頭に当てられた子供と、彼女を盾にしたひげ面の大男だった。
「道を開けろ!」
特徴的なだみ声だった。
ジャン達の証言とも一致するから、おそらくこの男が首魁だろう。
怒鳴り散らすお男の前に、レイが立ちふさがる。
「おい!」
子供の頭に銃をぐいぐいと押し付ける首魁に、レイは問いかける。
「一応聞いておきます。何で子供を使ったんですか? 非合法に儲けたいなら他に幾らでもやり方はありますよね?」
男は「何を言っているんだ?」と戸惑うが、レイはもう一度「何故です?」と問い直す。
「知るかよ。思いついたのがたまたまこれだったんだ。別に深い理由はねぇよ。どうせ見向きもされないで消えてゆく命だ。俺が有効に使っても問題ないだろう? 一発殴ればすぐおとなしくなるから、大人より扱いやすいしな」
「……同じような事を前も聞きましたが、まあ、安心しました。こちらも遠慮気兼ねする必要はないですね」
レイは素早く首魁に照準を定め、トリガーを引く。
近距離とは言え、人質の後ろに隠れた対象を撃ちぬくには神技級の技量を必要とする。これは特別な才能を持った人間が一流の指導者の教えを受けて、ようやく到達できる領域だ。
そして、レイが撃ちぬいたのは露出していた一番大きな部分。つまり頭だった。
「いてえっ! いてえよぉ!」
左目を潰された首魁はピストールを取り落とし、激痛で転げまわる。
「最小出力で撃ちました。当たり所次第で死んでもおかしくなかったですが、運が良かったですね」
レイは首魁を見下ろすし、凄みのある声で吐き捨てた。
その内心をうかがい知る事は、レオンにもできなかった。