三銃士

 聖暦1006年初頭に起きたアンナ・エルーラン王女誘拐事件を皮切りに、エルーラン王国は激動の時代を迎えたと言って良い。

 3年前の「魔将戦争」、前年の「薔薇の厄災」事件と並び、エルーラン激動の1年間は「英雄の時代」と呼ばれ、著名な歴史家が「あまりにも出来過ぎている」と評するほど、優秀な人材が台頭した。
 王国中興の祖と言われる女王アンナをはじめ、宰相ケストナー、銃士長バジル、外務卿ユーリと言った、王国の黄金期を担う若きエリートたちが、わずか1年の間に頭角を現している。
 興味深いのは、彼らは皆当時は格下に見られていた義勇兵部隊『王立銃士隊』の関係者であると言う事だ。
 現在では、若者なら誰でも憧れる青い制服も、当時は二線級の間に合わせ部隊のような扱いで、正規軍の中には露骨に見下す者も多かった。

 そんなあぶれ者の彼らが、何故人材の宝庫足りえたのか、本書では銃士隊躍進のきっかけとなる王女誘拐事件にスポットを当ててみたい。

 執筆に当たっては、先述の外務卿ユーリ・カルマン・ブランシュが書き残した「ブランシュ家再興記」と、銃士レオンを名乗った謎の人物による手記を参考にさせて頂いた。
 どちらも当時を知る上で一級の史料である。

 志と野心を胸に秘め、王国の未来に命を懸けた若き銃士たち。そんな彼らが駆け抜けた時代の息吹を少しでも感じて頂けたら、語り手としてこれ以上の喜びはない。