市井の人間に溶け込めると言う点で、エリートの赤枝の騎士団も王立銃士隊には及ばない。

 彼らが「貴族の矜持」や「倫理観」が邪魔をして入っていけないような場所も、銃士たちはごく自然に入り込む。高貴なものが眉をひそめるような下世話な冗談もお手の物だからだ。

 これは、優劣の問題ではなく、得意分野の違いではあるが。


GM:では警邏に出ますね。皆さんは街ではなかなか人気があります。


「銃士さん銃士さん、帰りにうちの店寄ってくれよ。ポルトーログレス直送のカレイが入ったんだ。大きいのおまけするぜ?」
「銃士さん、最近うちの宿六が腰をやっちまって、雨漏りが修理できないんだ。お礼は弾むから、ちょっと頼めないかねぇ?」

 ログレスの住人たちは青いカソックを見つけるなり、あれこれと世話を焼いたり、逆に仕事を頼んできたりする。そして銃士たちもそれを邪険にしない。
 銃士隊が独自に整備した人材評価制度は、この時代、いや現代の水準ですら高レベルなものだ。彼らの待遇を決める副官率いる事務部隊は、銃士一人一人が街人からどう思われているかすら把握しているからだ。


レオン:「ああ、有難う。後で寄りますよ」と話しかけてくる人たちを裁いてゆく。

GM:なんて感じにやり取りしつつその日担当の巡回ルートを進んでいきまして、葡萄酒通りと言う繁華街にたどり着いた時、なにやら人ごみを見かけます。

レオン:人ごみはどんな感じ?

GM:なにやら騒動を野次馬が取り囲んでいるようですね。

レオン:「事件みたいですね。行ってみましょう」

GM:近所のおばさんが皆さんを見て話しかけてきます。「銃士さん! いいところにきてくれた。何とか助けてやっておくれよ」

バジル:おいおい、まず何があったかを教えてくれよ。

GM:おばさんに連れて行かれた先には――人ごみの中、皆さんとは違い赤いカソックを着た一団、つまり赤枝の騎士団の下級騎士が少年に縄をかけようとしています。

GM:「さあ! 来るんだ!」と声を荒げる騎士達に「ごめんなさい。おなかが減って死にそうだったんだ。もうしないから牢屋だけは入れないでおくれよ」と、少年は必死に許しを乞うています。

レイ:じゃあ、「何があったんですか?」ってそんな騎士達に聞いてみます。

GM:聞くとですね、「うるさい平民風情が! 手柄を横取りしようったってそうはいかんぞ! あっちへ行っていろ!」と、取り付く島もありません。

バジル:では周りの野次馬に聞いてみましょう。「この男の子は何かしたのかい?」

GM:どうやらパンを盗んだらしいです。少年は必死に謝っています。


 尋ねられた男はちっと舌打ちをする。
 手には瓦版を詰め込んだ鞄があるから、どうやら報道関係者らしい。

「あいつら、騎士団の人材不足で内務省から左遷されてきた若手官僚だよ。真面目に治安維持の仕事をやる気なんか無いから、面倒を起こした子供をぶち込んでハイ終了ってとこだろう」

 騎士たちを見つめる街人の視線はどこか醒めている。
 何人かが青いカソックを見つけて、期待のこもった視線を向けてくる。

「僕が捕まると妹が暮らしていけないんです。どうか許してください!」

 必死に許しを請う少年に盗まれたパン屋の親父まで「この子も反省しとるようじゃし、いきなりしょっ引くのは可哀想じゃ。許してやってくれんかのう」と庇い始めるが、騎士たちは迷惑顔だ。

「許しちまったら、あの子が再犯を起こした時責任を追及されるからな」

 瓦版売りが、忌々しそうにかぶりを振った。
 レオンは、思案するバジルに問いかける。彼は問題を掘り起こすの事は得意ではないが、一度整理された問題に優先順位を付けることが、この上なく上手い。


レオン:隊長、まず確認しておきたいのですが、「面倒事を背負い込む」のと「目の前の状況を放置する」のはどっちが嫌ですか?

バジル:そんなもの、考えるまでもないよ。

レイ:こうなったら一蓮托生です。あの子を助けましょう。

レオン:(にやりと笑って)「では、お任せを」 騎士の眼前にずずいっと進み出ようか。「手柄を横取り? 誇り高い騎士様は随分と了見の狭い事だ。パンを一切れ盗んだ子供に大人がよってたかって縄かけて引っ立てていく。そんなことに血眼になるのが騎士様ということか?」

GM:こいつは瞬間湯沸かし器ですね(笑)。頭に血が上って剣を抜きます。

「愚弄するか! 平民の分際で! いいだろう、まずはきさまらに礼儀と言うものを教えてやろうじゃないか!」

バジル:あーあ、抜いちゃったか。


 騎士団間の私闘は、民間人に被害を出さない限り黙認されている。レオンは相手を挑発して剣を抜かせる事で、組織間の管轄問題を個人レベルの喧嘩にすり替えたのだった。
 おかげで彼らは、朝から実戦訓練を強いられることになったわけだが……。