ことは:皆さんこんにちわ。今日は第4話『漂流者たち①(後編)』でターニャが目にした戦闘機のお口についてよ。

真

真:劇中では説明なかったけど、そもそも何で戦闘機に口や目が描いてあるのさ?

ことは:あれはノーズアートと言うものよ。主に軍用機にペイントする飾りね。その中でもシャークマウスは最もメジャーなものよ。



真:たしかにこれ、見たことある! 何でこんな飾りを付けるんだい?

ことは:ぶっちゃけて言うとかっこいいからよ。士気高揚の為に昔からやっているそうね。流石に突っ込んだ話は分からないから、専門家を呼んでみたわ。

真:専門家?

ことは:ロニーたん。もう出て来て良いわよ?

ヴェロニカ

ロニーたんヴェロニカ:私を便利屋扱いするのは止めなさい! あとロニーたんって呼ばないで!

ことは:ご紹介させて頂きます。この記事を担当している萩原優の戦記小説『イリッシュ大戦車戦』に登場するヒロイン、ヴェロニカ・フォン・タンネンベルクちゃんです。

ヴェロニカ:ちゃん付けも止めなさい(怒)!

真

真:まあまあ。ヴェロニカさんプロの軍人なんだよね? ノーズアートについて教えてよ。

ヴェロニカ:私、陸軍アーミーなんだけど……。まあいいわ。ノーズアートを誰が始めたかはよく分かってないけど、自分の飛行機をカッコよく見せようとして飾り立てるのは第一次大戦から既に始まっているわ。有名なのは、ドイツ陸軍の『レッドバロン』ことリヒトホーフェン大尉ね。彼は愛機を赤く塗装したことで知られているわ。

真:ああ、赤い彼のモデルにされたと言われている人だね。

ヴェロニカ:あなた達の国で言うと、ノーズアートは戦国武将の兜や旗印みたいなものね。相手に自分の存在を誇示したり、自らの士気を上げたりするために用いられたわ。国や組織によって、公認だったり黙認だったりするけど、視認性が上がって発見されやすくなるから、最近はあんまりやらない事が多いわね。

ことは:じゃあ、何で作中の〔スーパートムキャット〕はノーズアートを付けてるのかしら?

ヴェロニカ:その辺も紺碧に聞いておいたわ。戦前の日本は陸軍航空隊の方がノーズアートに積極的で、一方で海軍航空隊はほとんどやっていなかったわ。これは読者たちの日本でも基本的に同じよ。ところが、旧海軍が母体になった海上自衛隊の戦闘航空隊は、米国から艦載機の調達や海軍ネイビー同士での人材交流を進める中で、少しずつそう言った文化が引き継がれたに染められて行ったらしいの。

真

真:よく自衛隊協力の映画とかで、トップガン留学経験者の主人公やライバルが出てくるよね。

ヴェロニカ:今では旧陸軍航空隊を母体にした航空自衛隊と同じくらい、積極的にノーズアートを使っているわね。本家の米軍で廃れ気味になって来てからも、相変わらず鮫の口やらアニメのキャラクターやらを塗りたくっているわ。

真:でも、何でアメリカでは廃れ気味になって来たのに、日本では続けているの?

ヴェロニカ

ヴェロニカ:分断国家である日本の国情ね。北日本やソ連(旧)の軍用機相手にしょっちゅうスクランブルをしていたから、視認性を落とすより派手な塗装で威圧した方が効果的だったようなの。

ことは:おお! 言われてみれば盲点だったわ。

ヴェロニカ:あとは、宣伝目的かしら。多彩なノーズアートを付けた軍用機をメディアに流すことで、自国民たちはもちろん、北日本の人民・・達にも自衛隊ここにありって見せつけたかったようね。ところが、そもそも北日本側の人民空軍の方が先にそっちにも熱心だったりしたものだから、更に対抗して奇抜な塗装を試み返して来たりと、相乗効果で互いにどんどん先鋭化して、南北日本だけガラパゴスになって行ったってわけ。

真

真:そんなことで競わなくても……。

ヴェロニカ:軍隊が常に合理主義で動くなんて幻想よ。米軍ですら〔ゼロ戦〕相手に舐めてかかって大やけどしたり、ドイツの新型戦車に旧式で立ち向かわせたり、重戦闘機に拘り過ぎて格闘戦の研究を怠ったり、色々やらしているわ。

真:それは敵を作る発言なんじゃ……。

ことは:ロニーちゃんはそれで良いのよ。アルフォンソさんが笑ってくれるから必死に毒を吐いている乙女心を分かってあげなさい。

ヴェロニカ:勝手な脚色はよしなさい! 彼は比較的まともな指揮官だから仕方なく支えてあげてるだけよ!

真:はいはい! 話を戻すよ? そう言えばノーズアートって自分が撃墜した飛行機を誇る意味もあるんだっけ?

ことは:それはキルマークね。撃墜した国の国籍マークを機首に貼りつけるの。海自の戦闘機は盛んにやってるわね。何故か空自はやってないけど。

真:えっ、なんで?

ヴェロニカ:戦後に空自の創設に携わった、歴戦のパイロットがそう決めたらしいわ。米軍やNATO各国軍のパイロットと交流する度に理由を聞かれるらしいけど、その度に空自のパイロットは「空自にとって撃墜記録は部隊のものであって、個人のものではない」と説明するそうよ。これ、飲みの席で結構ウケるらしいわね。もちろん空自がこれまでの数々の実戦で、一目も二目も置かれるだけの実績を出しているからこその自慢話として成り立ちもする話なわけだけど。

真:へぇ、歴戦の勇士は言う事が違うね。そのパイロットって誰なんだい?

ヴェロニカ:もう詳しい人はピンと来てると思うけど。そもそも『イリッシュ大戦車戦』にもちらりと出……。

ことは:すとーっぷ! それ以上は紺碧さんが本編で語ることになってるから我慢しなさい。

真:またそれー?

ことは:じゃあ、ロニーちゃんもありがとね。また突っ込んだ話をして欲しい時は呼ぶわ。

ヴェロニカ:もう二度とごめんだから! あと、ロニーちゃんって呼ばないで!

ことは

ことは:タダでとは言わないわ。舞浜にある夢の国は興味ない? 今ならアルフォンソさんと2人分のチケットが……。

ヴェロニカ

ヴェロニカ:ま、まあそこまで言うなら考えてあげてもいいわ。当然パスポート券よね?

真:この人、身持ちが固い癖にこういう時は途端に現金になるよね……。