また、お会いできて嬉しく思います。筆者の谷利と申します。

 この文章は「王立銃士隊」サイトの中で、メンバーが公開している作品の中の一要素を、歴史的・文化的なアプローチから取り上げてみて、作品の世界観の奥行きを拡げたり、歴史視点から作品に興味をもっていただこう! という試みになります。
 某公共放送の大河ドラマの本編が終わった後に流れる、「○○(作品名)紀行」のようになれば良いな~と考えております。

 なお、作者の方から許可を得ておりますが、アマチュアの歴史好きである筆者個人の緩い歴史考察であり、作者の方からの公式回答ではないことをあらかじめお断りさせていただきます。
 それでは前口上はこれまでとさせていただき、ゆるりと参りましょう。

 今回のテーマは『真秀ろば』で 登場した「超電導ウォータージェット推進」というあまり聞いたことがないような推進システムになります。


○第二次世界大戦後の人流・物流革命

 第二次世界大戦前、世界では大陸間輸送の主役は「オーシャンライナー」と呼ばれる大型の旅客船や貨客船による定期船たちでした。
 「タイタニック号」やその姉妹船で「第一次世界大戦」を戦い抜いた「オリンピック号」。「太平洋の女王」の愛称を持った「浅間丸」や「氷川丸」等など豪華な顔ぶれでした。

病院船時代の氷川丸

 しかし、第二次世界大戦で長足の進歩を遂げた航空機によりその座は脅かされることになります。「ダグラス社」が開発した「DC−4」は初めて太平洋を無着陸で横断し、初の実用ジェット旅客機「ボーイング707」の登場で隆盛を誇った「オーシャンライナー」は活躍の場を失うことになります。

ボーイング707

 また、1960年代に急速に普及する「輸送コンテナ」は物資を工場から港、駅などへの一括輸送を可能とし物流環境を一変させました。

 戦後の船運はこれらに対応できる「専門性の高い船」を求める時代になっていきます。

 さて、航空機が登場し「オーシャンライナー」にとって代わっても船運がなくなった訳ではありません(笑)。
 速度では敵わなくとも、トータルの経済性で見れば船運が勝ることが多かったからです。
 そこで求められたのが「コンテナ船」や「LNG船」などのような「専門性の高い船」や「搭載量がそこまで落ちない高速船」でした。

史上初のコンテナ船〔アイデアル・X〕

 本来でしたら「コンテナ船」など戦後の物流革命をおこした大容量を運べる船にきちんと触れるのがよろしいのですが……、「お題」と離れてしまうためばっさりカットし高速船のみに触れさせていただきます。(笑)


○高速船への取り組み(船体編)

 船の高速化を目指す場合に問題になるのが水の抵抗です。
 高速帆船「カティーサーク」のように船体を細長くすれば水の抵抗は減りますが、搭載できる量も減ってしまいます。また、横波を受けると転覆しやすくなるという弱点があります。
 これでは「トータルの経済性で勝る」ことが難しくなります。

 そこで戦後の高速船では「特殊な方法で水の抵抗を減らす」タイプと「スクリューに代わる新たな推進方法を模索する」という流れになりました。少しだけ触れてみましょう。

・「ホバークラフト」
米国がベトナム戦争に投入した〔ベル SK-5〕ホバークラフト

 軍事部門で成功をおさめた「エアクッション揚陸艇」などの「ホバークラフト」は僅かに水上や地面から浮きあがる特殊な船です。そのため高速性と地面も走れる水陸両用性から「夢の乗り物」と称され日本でも伊勢湾や大分などで活躍していました。
 ただ、軍事分野ではあまり問題にならなかった「騒音」、「悪天候」や「横風」に弱いという部分が民間経営では問題になってしまいます。
 近年、日本で航路復活の動きがあるらしいのですが……どうなるのでしょうか?

・「水中翼船」
水中翼船

 低速航行時は通常の船とそこまで変わりません。しかし高速航行中には「水中翼」という水中にある特殊な翼で揚力を得て、船体を水中から持ち上げて水の抵抗を減らしてしまうという船です。
 飛行機みたいなシステムですが、それもそのはず現在の実用的な水中翼船を開発したのは「ボーイング社」などの航空機メーカーでした。(笑)

 アメリカ軍やイタリア軍、自衛隊でも高速ミサイル艇として活躍したり 佐渡ヶ島や小笠原諸島 など離島を結ぶ高速フェリー 「ジェットフォイル」などが活躍しています。
 また、ついに活躍の場を得られなかった「スーパーライナーオガサワラ 」もこのタイプの船舶でした。

・「双胴船、三胴船」
インディペンデンス級沿海域戦闘艦の船体

 船体を細くすることで水の抵抗を減らすことはできますが、横波に弱くなるなどのデメリットが生じます。その解決手段として船をふたつ横に繋げてしまい安定性を高めようとしたのが「双胴船」。中央に船本体。両脇から小さめの補助船を繋げると「三胴船」と呼ばれます。

 アメリカ軍の「インディペンデンス級沿海域戦闘艦」 や台湾軍の「沱江級コルベット」などの最新鋭の艦船たちがいます。
民間では現在、台湾で活躍している「ナッチャンRera」などがいます。

ナッチャンRera

 「ホバークラフト」や「水中翼船」では大型化には限界があるため各国の研究対象となっているようです。

 ただ、特殊な船体は普通の船舶よりも搭載できる量が少なかったり、維持費が嵩んだりします。
双胴船やホバークラフト、水中翼船のように専用の整備施設が必要で、整備費用やメンテナンスに時間がかかり、ジェット機なみのメンテナンス精度を求められたりします。
 また、特殊な船は後継船がなかなか手配できないという問題もありこれからの課題でもあるようです。


○高速化への取り組み(推進方式編)

 さて、やっと「お題」である推進方式に辿り着きました〜(笑)。

 通常のスクリューによる推進では時速30ノット(約54キロ)ほどになると、運動エネルギーを伝える効率が下がるため、更なる高速航行を実現しようとするには別の推進方式を模索しなければならなくなります。このあたりはプロペラ飛行機と事情が似ていますね(笑)。

 なお、「通常」とつけさせていただいたように、特殊なスクリューで高速船を建造することもありますので。その船の使用用途と費用対効果によりけりなのは忘れてはいけない要素になるかと思われます。(笑)

 さて、「ウォータージェット」はそんな高速化実現のために登場した新しい推進方式で、「ジェットエンジン」が空気を吸入し、圧縮して噴射する工程を「水」に置き換えていただくと想像しやすいかもしれません。水を圧縮するためにエンジン内部に「プロペラ」がある のも似ています。

 だからこそ「ジェットエンジン」の開発製造ノウハウを持つ海外メーカーに対して日本メーカーは新規開発や販売ノウハウの不足からライセンス生産に頼らざるをえなくなります。ライセンス料が上乗せされますから価格競争面で苦しい戦いをしていたところに新興国の参戦や日本国内の不況が追い打ちをかけることになります。


○「ヤマトⅠ」と「超電導ウォータージェット」

 事態の打開策として提唱されたのが日本が得意とする「超電導技術」を用いた新型推進システム「超電導ウォータージェット方式」でした。
 「リニアモーターカー」が使用する「超電導磁石」が発する強力な磁力で「磁界」と呼ばれる空間を作り、そこに電気を放出することで「ローレンツ力」という力が発生します。中学校の物理で習った法則「フレミング左手の法則」を利用して水を圧縮、推進します。

 当初は排水量50tほどの小型船を想定して設計されていたのですが、超電導磁石と冷却装置が大き過ぎたため船体に載せられないことが判明。最終的には3倍の排水量になってしまいました。

 実験船は「ヤマトⅠ」と命名され、その処女航海は世界から注目を集め、1992年(平成4年)に進水、そこから実証実験を行い時速8ノット(約14㎞)ほどの速度で航行し実験は成功します。

 ですが、実用化への問題は盛りだくさんでした。

  1. 「超電導磁石」を使用するために必要な「冷却剤」である「液体ヘリウム(-269℃で液体状態になります)」が非常に高額である事。
  2. 船を運航する準備としてゆっくりと磁石を冷却しないと壊れてしまうので準備に約10日程かかってしまう。
  3. 冷却装置の性能不足で電流システムが故障してしまった。
  4. 速度を上げるためには強い電気を海面に流す必要があり、これは海水を電気分解し「次亜塩素水」を発生させ続ける。航行速度を上げる場合は高濃度の「次亜塩素水」を垂れ流ししてしまう。
  5. 海水の塩分濃度は一定ではないため電流の流れる量が安定しない。エンジンで例えるならば出力の安定しないエンジンになってしまう。
  6. 淡水では電気が流れないため航行不能。

 このように実用化には多くの問題がある事も証明したためそこで大きな研究はストップしてしまいました。

 こうして、歴史の流れに消えていった「超電導ウォータージェット」ですが「並行世界の日本」に「魔導機関」という新たな技術がもたらされるようです。果たして「ブレイクスルー」をもたらすのでしょうか?
そして、「エンジン」や「インターネット」がそうであったように、影響はその分野だけに留まるものなのでしょうか?

 そのあたりにも興味を持っていただけると嬉しく思います。
 今回もお付き合いいただきありがとうございました。



真:ナッチャンReraなら僕らも乗せて貰ったことあるよね。ほら、中学の修学旅行でさ。

ことは:あれはナッチャンReraじゃなくて姉妹艦のナッチャンWorldの方ね。真はあの時酔っちゃって大変だったわね。双胴船は揺れ方が独特だから、酔う人もいるみたいだけど。

真:ことはがそれを言う? カメラ片手に船じゅう駆け回って説教食らってたじゃないか!

ことは:何言ってるの! 本当は船首に立って両手を広げたかったけど、止められて泣く泣く我慢したのよ?

真:いや、船の形を見てよ! 出来るわけないでしょ!? 出来たとして今更何の意味が?

ことは:いやぁ、あの映画の続編がそろそろ来るかなーと思ってたんだけどねぇ。現代に転生した主人公が、超技術で蘇ったニュータイタニック号に乗り込むわけよ。「今度のは大丈夫だから!」って女神さまに言われて。勿論全然大丈夫じゃないんだけど。

真:どうしてそう言う台無しな発想がでてくるの……。

続く

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