マリア:待ってましたよ兄さん! 今回はいよいよ『王立空軍物語』にしか登場しない架空機を紹介するって話じゃないですか! 私昨日は楽しみで8時間しか寝てません!

隼人:万国の労働者に喧嘩売るようなボケは止しなさい。今回は『鋼翼の7人』編のラストで俺たちを救出にやってきてくれた、艦上攻撃機〔瑞山〕について紹介する。設定考証アドバイザーの谷利さんが〔瑞山〕の模型を自作してくれたので、それも公開してゆくぞ!

マリア:作中では、爆弾、魚雷、反跳爆撃と多彩な攻撃を行っていましたし、相当に使い勝手の良い飛行機のようですね。

隼人:そう、その「使い勝手」こそが〔瑞山〕だけでなく、『王立空軍物語』世界を紐解くカギになる。まあ順序だてて解説していこうか。


〔瑞山〕開発の経緯

マリア:まず聞いておきたいんですけど、〔瑞山〕ってどんな外見なんですか? 劇中に描写は一切なかったですけど。

隼人:主役機ってわけじゃないし、説明する尺が無かったんだよ。そのためにこのコーナーがあるわけだし。でもちょっと飛行機に詳しい方ならもう分かってるんじゃないかな? 〔瑞山〕は、史実でも活躍した傑作水上機〔瑞雲〕の艦上機型だ。

〔瑞雲〕の実物大模型

マリア:〔瑞雲〕は水上偵察機として優秀なだけでなく、急降下爆撃までこなせる万能水上機ですね。

隼人:ただなぁ、この〔瑞雲〕は、ある意味、史実を含む日本人の問題点を象徴してるんだよ。

マリア:問題点、ですか?

隼人:日本人の悪癖、「無駄にハイエンド志向病」だよ。令和の話に例えるなら、パソコンを買う時用途から性能を考えずにとにかく高性能なものを買って持て余す人がいるだろ? 〔瑞雲〕の開発にはそれなりの用途が想定されていたわけだが、偵察機にまで多機能化を推し進めて仕舞うところにこの性向がちらつくんだよ。

マリア:むむむ、成程。でも、そんなに不味いならどうして兄さんの未来知識で止めなかったんですか?

隼人:性能自体が破格だったのもあるが、別の用途にも合致したからだ。艦隊に配備する他に、例えば潜水艦への対策や、通商破壊、陸上基地へのゲリラ爆撃、飛行場の無い離島や辺境での哨戒・攻撃任務。多機能だからニッチな需要を満たすんだよ。同盟国に売れば元が取れるし、大量生産すれば価格も下げられるし。

マリア:結局はお金なんですね。それならどうして高い開発費をかけて〔瑞雲〕を艦上機化したんですか? 日本には〔彗星〕と言う艦上爆撃機が既にありますよね? しかも、エンジンも空冷型は〔瑞雲〕〔瑞山〕と同じ〔金星〕です。

隼人:確かに日本が誇る艦上爆撃機〔彗星〕だが、性能自体はすこぶる良い。

マリア:ええ、クロア内戦でも大活躍しましたね。

隼人:ところが、こいつは「構造が複雑で整備が大変」と言ういつものアレが小型空母への配備を妨げている。魚雷攻撃を行う艦上攻撃機も、高性能化に伴いドンドン大きく重くなって、現行機の〔天山〕はやっぱり小型空母には積めない。中型空母ですら運用に苦労するありさまだ。まあ、史実では結局生産が追い付かなくてこの問題は顕在化しなかったわけだが。

マリア:私は兄さんが何を言いたいのか察しがつきましたが、読者の皆様の為に説明をお願いします。

隼人:つまり日本軍、特に海軍は「ハイローミックスのロー」の部分がストンと抜け落ちてしまいがちと言う事だ。言うなれば、電話とメールしか使わない人に10万円以上するハイエンドなスマホを売りつけるどこぞの店員みたいな感じだ。

マリア:兄さん……なんか私怨がこもってません?

隼人:(スルーして)ならばどうすればいいか? 1・2万円で買える格安携帯ショップに置くことだ。つまり、大型空母では高性能な〔彗星〕〔天山〕を運用し、中型・小型空母では性能を抑えて使いやすさを重視した飛行機を載せるべきだと提案したところ、兵部省と海軍が用意したプランが多任務艦上攻撃機〔瑞山〕と言うわけだ。

マリア:多任務艦上攻撃機と言うコンセプトは、急降下で爆弾を落とす艦上爆撃機と、低空で接近して魚雷を落とす艦上攻撃機を一機種にまとめたものですね?

隼人:小型の空母で使用するなら、機種は絞った方が良いからな。この場合の多機能は用途が似通った分野だから、兼任させても無理は出ないし、何でもかんでも高性能を狙わず堅実に徹すれば多機能で使いやすい製品は日本でも開発可能だ。
 地味に大きいのは、艦上攻撃機は3名の乗員を必要としたが、こいつは2人で動かせる。つまり乗員の育成コストが減り、撃墜された時の人的被害が減る。

マリア:すごい便利じゃないですか!

隼人:乗員が減った分1人当たりの負担も増えるから、良いことずくめってわけにはいかなかったがな。

マリア:でも、賢竜会議の後押しがあるとは言え、よくこんな短時間で意識改革が出来ましたね。

隼人:同盟国の影響は大きいだろうな。欧州はハイローミックスの本場だし、ライズの国々は「魔法を使える人材の活用」と言う点でリソースのやりくりには一日の長がある。例えば、こちらの日本海軍は対潜哨戒機として〔ソードフィッシュ〕を採用している。

マリア:えっと、ここは驚いておくところですよね? ええっ! あの旧式の複葉機をわざわざ採用したんですか!?

隼人:リアクションありがとう(笑)。〔ソードフィッシュ〕はとにかく使い勝手がいい飛行機だからな。低速で運動性が良いから潜水艦を追い回すのには最適だし、旧式なのに機上レーダーを持っている。おまけに操縦が簡単で空母への離着陸も楽ちん。

マリア:まさに痒い所に手が届く孫の手のような飛行機ですね!

隼人:海上護衛総隊のパイロットも皆こいつを気に入って、護衛空母〔大鷹〕では高性能なはずの〔瑞山〕への機種転向でひと悶着あったらしい。牟田口提督もお気に入りで、「ドイツの〔Fw190〕が農耕馬なら、我が艦隊の〔ソードフィッシュ〕は農耕用の牛だ!」と絶賛したとか。

みんな大好きむたぐー将軍提督

マリア:……あの人、善玉にライトターンしても牛に拘るんですね。

隼人:ネタが分からない方は、「ジンギスカン作戦」でググって頂きたい。で、そんな成功体験を重ねるうちに、上も現場も意識が変わってきたようだ。「ルーチン的な任務に扱いの難しい高性能兵器なんて意味ないよね?」と言う事にやっと気づけたわけだ。

はぁと

マリア:〔瑞山〕が登場した背景は分かりました。では、お待ちかねの〔瑞山〕模型をお願いします♪


艦上攻撃機〔瑞山〕

隼人:これが我がサークルが誇る設定アドバイザー、谷利さんが作ってくれた艦上攻撃機〔瑞山〕のプラモだ!

マリア:かっ、かっこいい! このまま戦闘機として通用しそうな洗練されたフォルムです!

隼人:谷利さんは「推しポイントはエンジンカウル周りですね。「瑞雲」らしさを残しつつ「彩雲」っぽいエアインテークで別の機体だとアピールしてみました」と語ってくれた。ちなみに「エアインテーク」とは、空気の取り入れ口だな。

〔瑞山〕のエアインテーク

マリア:この形状はそそりますね。〔瑞雲〕の角ばったインテークより流麗で進化してる感が出てます。惚れ惚れします。

〔瑞雲〕のエアインテーク

隼人:マリアは戦闘機みたいと言ったが、実際主翼に20mm機関砲99式20mm機銃を搭載しているので艦爆や艦攻相手なら十分空戦が出来るぞ。

マリア:20mm!? 普通に襲撃機としても使えそうですね!

隼人:既に襲撃機型〔彗星〕の補助戦力として採用が検討中だ。海外への売り込みも堅調で、ブリディス都市同盟では〔ターポン〕と言う名前でライセンス生産が始まっている。クロアやラナダでも採用が決まった。

マリア:皮肉なことにハイエンド機よりも売り上げが順調なんですね……。

隼人:日本人に「使いやすい商品」を作らせたら無双必至なのは戦後の家電や自動車産業が証明しているからな。それも令和では揺らいではいるが。

マリア:でも、魚雷はどうなんでしょうか? もともと250kg爆弾25番しか積めない〔瑞雲〕を改造したら、流石に標準装備の800kg魚雷は積めないですよね?

隼人:使用する魚雷はソードフィッシュと同規格のものだな。小型だが新型のトーペックス火薬を使ってるから、威力は十分だ。史実ではこれより旧式のタイプが戦艦〔ビスマルク〕の操舵装置にダメージを与えてるからな。

マリア:ローテクでも戦果を挙げたら勝ちですもんね。

隼人:爆弾も250kgだが、こいつは空母を一撃で沈めるのではなく飛行甲板を破壊して艦載機を使用不能にするのが主目的だ。あとは〔彗星〕の500kg爆弾50番や、魚雷搭載機が仕留めてくれる。

マリア:搭載兵器もローエンドなんですね。日本人らしからぬ徹底ぶりです。

隼人:それでも高性能な事には変わりないがな。旗下の空母が〔ソードフィッシュ〕から〔瑞山〕に機種変更した際、牟田口提督は、「俺の耕牛が闘牛になった!」と狂喜し……。

マリア:牛はもう結構です!

続く

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