マリア

マリア:と言うわけで、ようやく主役機の〔疾風〕ですね。そもそも、〔隼〕を主役にした先行公開版はどうなったんですか? 何で正式版はいきなり1年半後の話から始まってるんです?

隼人:その件に関しては、作者のはぎわらからコメントを貰っている。今から読み上げるぞ。

「ごめんなさい」

と言う事だ。

マリア(汗)

マリア:あのー、もしもし?

隼人:俺の方で補足しておくと、先行版の「クロア動乱編」は時系列では中盤の山場になるんだが、まずここから書こうとして、見事に行き詰った

マリア:あちゃー。

隼人:クロア編はオリジナルや史実の人物が入り乱れて立ち回りをするので、キャラを消化しきれなくなって破綻したんだな。完全に実力不足だ。

マリア:それは、書き始める前に気付くべきでは?

隼人:で、よりハードルの低い序章として、クロア編から1年半年後の、閉じた舞台で登場人物が限られた『鋼翼の7人編』から仕切り直して書き始める事にした。それでも挫折しまくって、師匠の紺碧さんに泣きついていたようだが……。

マリア:うちの作者、完全にネタキャラと化してますね(苦笑)。

隼人:勿論、クロア編はちゃんと書くつもりらしいので、もう少しだけ待ってくれ。

マリア:わかりました。読者の皆様、どうか長い目で見てあげて下さい。


■史実の〔疾風〕

マリア:でも、私思うんですけど、〔疾風〕の強さって、ちょっと分かりにくいですよね?

隼人:いきなり痛いところを突いてきたな。確かに〔疾風〕は、旋回性能で〔ゼロ戦〕や〔隼〕に劣り、最大速度で米軍機に劣る。武装は辛うじて世界標準レベルで、防御性能もあるにはあるが決して堅牢とは言えない。高高度性能も「日本機にしては良好」に過ぎない。
 ぶっちゃけ〔疾風〕が「ここが突出して凄い」と言う要素はあまりないように思える。

マリア:そんなんで主役機なんですか?

隼人:〔疾風〕の強さはその「器用貧乏さ」にあるのさ。

マリア:それって誉め言葉なんですか? 凄いところがないって言われてるのと同義だと思うんですが。

隼人:それを答える前に、まずは登場の〔疾風〕経緯を語っておこうか。
 開発が始まったのは開戦直後の1941年12月。開戦時の(質の上で)主力だった〔隼〕が米陸軍の〔ウォーホーク〕重戦闘機に苦戦したことで、高速、重火力の戦闘機が必要だと再認識された。

P40〔ウォーホーク〕

マリア:陸軍には〔鍾馗〕と言う重戦闘機がありましたが?

隼人:あれはインターセプターで攻めてくる敵を迎え撃つ戦闘機だ。

二式戦闘機〔鍾馗〕

 だから航続距離は短いし、質の悪い飛行場だと事故が多発するから侵攻用に使えない。もっとも、〔疾風〕が実戦投入される頃には日本は守りに入って、〔隼〕のような長距離侵攻戦闘機は必要なくなってしまうんだが。

マリア:つ、辛い。

隼人:そして、〔隼〕と〔鍾馗〕を送り出した中島飛行機の小山悌技師が本機を設計するんだが、〔疾風〕のコンセプトは軽戦闘機〔隼〕と重戦闘機である〔鍾馗〕の統合戦闘機だ。重戦闘機のように突撃し、乱戦になったら軽戦闘機のように軽快に飛び回る。ある意味戦闘機乗りの理想を追求した戦闘機だ。
 つまり、「器用貧乏」と言う事は、「相手が付け入る隙が少ない」と言う事だ。

マリア:なるほど! 「器用貧乏が強さ」とはそういう事でしたか!

隼人:このコンセプトは、大東亜戦争の実情にマッチした。米国は一撃離脱タイプと格闘戦タイプの両方を大量生産するだけの国力があったが、日本には無理だ。ならば両方こなせる飛行機を使うしかない。期せずして、大戦後期の名機と言われる日本機は、概ねそこそこの速度と旋回性能を兼ね備えたものが多くなった。

マリア:でも、万能型は特化型に負けちゃうんじゃないでしょうか?

隼人:そうとは限らない。例えば、空戦は最初に一撃を加えたらもつれ合うように格闘戦になる事が多いから、優速の敵でも格闘戦に引きずり込むことは可能だ。格闘戦が得意な敵でも米軍機は重防御で重いから、加速性能で渡り合える。速度もそこそこ速いから、逃げる相手を追撃することもできる。その強さは、中国戦線で米軍の新鋭機〔ムスタング〕を圧倒し、「赤子の手を捻じるがごとし」とまで言わしめた。

マリア:なんか〔疾風〕が凄い出来る子に見えてきました! モビルスーツで言ったらジムカスタムですね!

隼人:お前、とりあえずガンダムネタをぶっこんで来るな。

マリア:最初にやったのは兄さんですし。それに、分かりやすくていいじゃないですか。ザクは〔ゼロ戦〕、ドムは〔ライトニング〕、ビグロは〔コメート〕でゲルググは〔Ta152〕とか。

隼人:そう言う異論が出て喧嘩になりそうな話題はやめときなさい。

マリア:残念です。で、〔疾風〕は日本陸軍の有終の美を飾ったりしたんですか?

隼人:ところが、そう旨い話は無かったわけだが。

マリア:あー、やっぱり来ましたか。

隼人:……〔疾風〕は、フルスペックを発揮できなかった。

マリア:いつもの奴ですね。

隼人:原因はいくつかある。エンジンの〔誉〕が大馬力化と小型化を両立させようとした結果、頻繁な整備を必要とするのに、軍には〔誉〕の取り扱いに慣れた整備兵を養成して前線に送るだけの能力が既に無かった。

マリア:えっ!

隼人:〔疾風〕が登場した頃になると、日本戦闘機は軒並み低い稼働率に泣いている。資材も人もいないんじゃ〔疾風〕がどれだけ強かろうが問題じゃない。初戦こそ米軍の新鋭機相手に勇戦したが、フィリピン戦以降は整備不良と物量差で押しまくられたことで苦戦し、更に……。

マリア:まだ何かあるんですか?

隼人:エンジンに空気と燃料を供給する機構の不具合で、運転制限を課されしまっていた。おかげで、重量級の〔Fw190〕に加速で負け、エンジン出力で劣る〔五式戦〕に3機がかりでも勝てずと良いところなし。改善策はあったんだが、結局終戦に間に合わなかった。

マリア:軍用機って、ただ強ければいいってわけじゃないですからね。

隼人:皮肉にも、鹵獲した米軍が整備したところ本来の性能を発揮し、調査を担当したフランク大佐が高性能に敬意を表して自らの名前を与えた。
 つまり、日本が運用した〔疾風〕は本来の〔疾風〕ではなく、また本来の〔疾風〕を安定して使いこなす能力は当時の日本になかった

マリア:つ、つらい。何かいい話は無いんですか?

隼人:初戦のような活躍がなかったとはいえ、〔疾風〕が有力な戦闘機であることは変わらない。フィリピンでは大被害と引き換えに、物量で勝る米軍に猛攻をかけて多数のエースを撃墜したし、本土防空戦では〔B29〕とタイマンを張って単機で撃墜した猛者もいた。整備体制を見直すことで、100%近い稼働率を示した部隊もいる。決して〔疾風〕はヘボじゃない

マリア:それそれ、そう言うのです! 血沸き肉踊りますよ!

隼人:また、実戦投入が滑り込みセーフで間に合ったと言う点も挙げられる。同じエンジンを積んだ海軍の〔紫電〕、〔紫電改〕が1000機程度しか生産できなかった事に比べて、〔疾風〕の生産数は約3500機。ロールアウトも早い。旧式化した〔隼〕から上手くバトンタッチ出来た。

マリア:Mk-Ⅱのピンチに颯爽と駆け付けたZガンダムのようにですか!?

隼人:もうそれは良いから(笑)。作者のはぎわらも、本来の性能を発揮した〔疾風〕の活躍を書きたくて『王立空軍物語』の構想を思いついたそうだ。

マリア:じゃあ、その本来の性能を発揮した『王立空軍物語』の〔疾風〕を見せて頂きましょうか!


■『王立空軍物語』の〔疾風〕

マリア:さあ、魔改造タイムです! 生まれ変わった〔疾風〕を早く見せてください!

隼人:と言っても、例の親殺しのジレンマがあるから、別物になったわけじゃないぞ。こちらの〔疾風〕は〔隼〕と同じで日本が設計製造してダバート王国がライセンス生産している。
 ざっくり言ってしまうと、どこか一定の能力を飛躍させたりせず、スペックを均等に底上げした感じだ。

マリア:具体的には何処が違うんでしょうか?

隼人:まず、過給機が二段式三速に強化されているな。これは史実で計画されながら実戦に間に合わなかったものだ。

マリア:知ってるけど、読者の為に聞きますね。過給機って何ですか?

隼人:ややっこしいから思いっきり簡単に話す。
 エンジンを動かすためには空気を消費してガソリンを爆発させる必要があるけど、どうしても余った空気が出てしまう。それをもう一度エンジンに送り込んでパワーアップさせるのが過給機だ。
 前世日本は一段式しか作れなかったが、二段に重ねればより強いパワーと、高高度性能を得る事が出来る。

マリア:ゆで理論ですね! 一段式で1000馬力! 二段式で2000馬力! 回転を加える事で4000馬力! 更にいつもの3倍の速度で急降下して〔B29〕! お前をうわまわる12000馬力だーっ!!

隼人:……お前、どこで覚えてくるんだそんなネタ。

マリアてへぺろ

マリア:飛行機ネタだけだと読者が疲れちゃいますので♪

隼人:まあいい。二段過給機の効果として、エンジンのシリンダー内に更に圧力をかけてパワーを上げる事が出来る。〔ムスタング〕や〔スピットファイア〕のエンジンなんかはこの方法で強化しているが、重くはなっても大きくはならない。つまり、空気抵抗が増えないんだ。

マリア:そんな便利なやり方があるなら、日本は無理だとしても、ドイツとかは真似しなかったんですか?

隼人:使っていたエンジンが構造上二段過給機に向かなかった事もあるが、資源が無かった。高性能の過給機にはレアメタルが必要だし、燃料も良質なものを使わないとすぐ誤作動を起こしてしまう。しょうがないからエンジンを大型化させて馬力を増すしかないが、そのためにはエンジンを再設計しないといけないし、機体の方も調整しないといけない。結果、米英軍機の進化に追いつけない。資源が豊富な連合軍に対し、枢軸軍は片手を縛ってボクシングをするようなものだった。

マリア:でも、こちらの〔疾風〕は違うんですよね?

隼人:ダバート王国から良質の燃料が採れるからな。敢えてスペックは出さないが、俺が乗っている〔疾風〕は史実よりも高い馬力を持っている。それから、プロペラも幅広の新型だぞ。

マリア:プロペラの話は以前聞きましたが、幅広なんですね。

隼人:幅広のプロペラは効率が良いんだ。〔疾風〕は2000馬力級戦闘機にしては小型にまとまっているが、そのせいでプロペラを大型化できないから、効率が落ちていたんだ。それを幅広にすることでとりあえずの解決になった。ただし、プロペラを支えるハブに強い力がかかって損耗しやすいから、頻繁な整備を必要する。

マリア:繊細な機体なのは兄さんの前世と変わらないんですね。

隼人:条約軍はこの辺はもう諦めてるな。生産数を落としてでも予備部品を安定供給することと、〔誉〕を扱える整備兵の大量育成で乗り切ると決めた様だ。整備方法は例によって俺の前世知識も入ってるが。

マリア:でも、物量で攻めてくる連盟軍に対抗できるんですか? ただ量に質だけで対抗しようとしたら史実と同じ結果を辿るんじゃあ……。

隼人:そこは「ハイローミックス」と言う考え方があってな。造るのが難しいハイエンドな兵器と、それより性能は低いけど簡単に造れるローエンドな兵器を組み合わせて使用すると言うものだ。読者の皆様には、同じメーカーでも価格帯の違うスマートフォンを想像して頂きたい。

マリア:じゃあ、ローエンドはやはり〔隼〕なんですか?

隼人:機会があれば改めて解説するが、ローは複数あって、〔隼〕の強化型もその1つだな。ローエンドの戦闘機はそのうち1つが第1部『鋼翼の7人』にも登場するぞ。

マリア:むー、出し惜しみしますね。じゃあ、次回は何を解説するんですか?

隼人:予定は未定だが、解説は基本的に作者が好きで詳しい機体限定になる。ぶっちゃけ気分次第だそうだ。

マリア:結局それなんですね。

第4回に続く