アコさん:このページでは、TRPGリプレイ『アリアンロッドBB』に登場する「王立銃士隊」の歴史を紹介しています。
バジル:そう言えば俺、良く知らなかった。いつ頃出来たんだっけ?
アコさん:バジルさんは隊長でしょう? ちゃんと覚えておいてください。
バジル:……すみません(しょんぼり)
アコさん:もう、しょうがないですね。ちょうどいいから、私たちも復習しましょうか。
バジル:おう! よろしく頼む!
「ポルトーログレスに見る、エルーラン王国現代史概説」より
聖地ディアスロンドを抱くエリン山脈にその源を発し、エリンディル西方最古の王国エルーランの中央部を北から南へと貫いて流れる、「エルーラン王国の母なる河」とも呼ばれる大河、サーブ河の河口は広大な三角江(三角州が沈降し水没した入江)を形成している。
その広大さは、感覚的にはほとんど湾と言って差し支えのない、外洋船が海上からそのまま乗り入れて〝航海を続け〟られる程のものであるが、そんなサーブ河の河口部へと流れ込む支流の一つにガロナ河がある。
王都ログレス北西のランヌ湖に端を発する緩やかな流れのこの河は、当初は南方へと流れ、やがてログレスに接近。その北西から東端へとかすめて回り込む様に流路を東向きへと転じ、サーブ河デルタへと注ぎ込む。
この地勢に目を付け、王都ログレスとサーブ河とを直結する水運の大街道としての開発がおよそ40年前に行われ、ガロナ河の下流域東進部はほぼ全域に渡って、大型外洋船がサーブ河の河口部三角江からログレス至近まで遡上することが可能となる程の河幅の大拡張と浚渫により、様相を一変させた。
※この開発が行われたガロナ河下流部には特に、「ログレス大運河」の別称を当てられる例も見られる。
また、並行してガロナ河流域の穀倉地帯に用水路網の拡張再整備を行ったことにより、ログレス周辺地域の耕地面積と農業生産高はこれ以来大幅な向上をみている。
そしてこの一大開発の要となる王都ログレスの外港(河港)として、運河として拡張されたガロナ河の始点部に新たに造られた街がポルトーログレスだ
街としての歴史は非常に浅いものではあるが、街のその名が端的に現す通り、ログレスからは独立してはいるものの、徒歩でも少々足を延ばす程度の感覚で繋がった他の衛星都市と共に、広義のログレス―大ログレス圏を形成する都市群の内でも筆頭に挙げられる規模と、とりわけ密接なログレスとの結び付きを持つ街となっている。ポルトーログレスの河港は、王都に直結のその立地の利便性を活かしてのログレスへの生鮮品の陸揚げや、聖地ディアスロンドを目指すサーブ河の水運の発着点と言った、主に内陸・沿岸航路の拠点港湾として日々賑わっている他、王族や大貴族の主に私的な船舶の泊地としても活用される、小振りながらも機能的な構造に造られた本格的な港湾として、誕生以来常に活気に満ちて賑わっている。
これら一連の国家的開発事業は、現国王エル13世の治世下で唯一と言っても過言ではない、彼の主導した施政として挙げられるものと衆目の一致するところである。
まだ即位前の若き王太子時代、見聞を広げる為にエリンディル西方の諸国(当時)を遊学した後のエル13世青年は、その中でもとりわけ(現在ではパリス同盟の一員となっている)「機械の街」カナンに深い感銘を受けたと言われている。
パリス地方の大河の一つであるネルス河に直結の河港を介して流入先のトワド内海、また上流の水都クラン=ベルとも繋がり、発達した錬金術による機械化産業が発達するカナンの姿に、若き王太子は来るべき新たなる時代の王都、ひいては自国の理想像をそこに見出し、自らも先進的な文物や制度に接して多くを学んだ。
やがて帰国し即位したエル13世は、自らが継いだ王国を改革しようとの理想に燃え、様々な新施策を打ち出し始める。
その中でも目玉となったのが、ガロナ河東進部の大拡張と周辺地帯の水利事業、そして後にポルトーログレスの名を冠せられることになる、カナンをモデルにした王都ログレスの外港として機能する河港の街の造営であった。
この様な経緯の上に誕生した街であるが故に、ポルトーログレスのその河港と街の全体像は、パリス地域出身の、ないしは同地を知る行商人や聖職者、冒険者らが異口同音に第一印象を述べる通り、「まるで小さなカナンだ!」と言う造りと雰囲気の街として形作られているのである。
言うまでもなく、エルーラン王国の歴史上はおろか、このエリンディル西方世界全体を見回しても恐らく例を見ない程の大事業であったことは、おそらく間違いなかったであろう。
このかつて無い程の大事業の実施に当たって、エル13世は巨費を投じてかつて自らも学んだカナンから多数の錬金術機械およびその技師・技術者達を招聘し、工事の計画と指導、労働者の教育にと当たらせた。
当初より財政的な面からの反対・慎重論が根強かった大事業ではあったが、無論のこと財政面の要素は無視出来ない話であるとは言え、エル13世のこの英断により工事そのものは、事業の規模からすれば驚くほど短期間に進捗して行った。
若きエル13世の狙いとは、短期的に見ればまずは大規模な土木工事の実施による労働雇用の創出。そして事業を通じて機械化と、それに対応出来る(機械を活用出来る)人員の大量育成。
中長期的には本事業後の機械とそれを活用出来る人員の再配置(王国が貸与する機械と共に帰郷し、今度は自身が学んで来たものを各自が故郷にて指導する立場となる)による、王国全体への産業機械化の普及による国力増大策。と言う、歴史あるが故に逆にそれが固陋なる因習とも化してしまっている面も多いエルーラン王国へと、(カナン風の表現で言えば)いわば「産業革命」をもたらそうとしたものであったのだ。
しかしながら、エル13世のこの大改革は完遂されることなく中途での挫折を余儀なくされることとなる。若く、また理に燃えてもいたが故に、エル13世は継いだばかりのその王権も安定しない内に、ことを急ぎ過ぎた面があったと言うのは、残念ながら事実である。
だが、それ以上に悲劇を通り越して喜劇的でさえあったのは、貴賤を問わず当時のエルーランの臣民大多数にとっては、若き国王が抱いていた現状認識とその高邁な理想とは、あまりにも先進的に過ぎたものだったのだと言う点であろう。
それら大多数の臣民の目には、若き国王の施政は「天文学的な国費を、国政も省みず自らの趣味的な無駄な巨大工事のみに湯水の如く浪費し、しかもそれによって我々の既得権益までをも破壊しようとしている」と言う風にしか見られなかったのだ。
その結果が、ガロナ河下流部の大運河としての拡張工事がほぼ完成し、まだポルトーログレスの名を正規のものとはしていない新しい河港の街が第一期の造営を終えて、その運用が始まろうとしかけたタイミングで持ち上がった、「船の街」フリールからの陳情をきっかけに、王国各地に一斉に飛び火して勃発した国を揺るがす大叛乱であった。
企図せずして大叛乱の口火を切るきっかけともなってしまったフリールは、「船の街」と言うその二つ名が示す通り、古くからログレスの外港の役目を果たして来た大海に面する天然の良港で、ログレスの建都と歩を揃えてその南門からこの街とを結ぶ街道が整備され、共に発展して来た歴史を持つだけに、そこに暮らす人々からすれば王都の外縁部に直結の、
しかも王都の名を冠した新しい港街が誕生するなどと言う事態は到底看過しうるものでは無かった。
これまで、文字通りの何百年単位でずっと変わらず王都ログレスに代わってエルーラン王国の海の玄関口を自認し、またそれによる利益も享受して来たフリールから見れば、エル13世の政策は彼らの経済的利権を潰し、同時に数百年に渡って育み受け継いで来ていた「海に向かっての(もう一つの)都だ」と言う住人としての矜持、心意気と言うものまでをも踏みにじることだと、その様に受け止められてしまったのであった。
当のエル13世自身にはフリールの価値は無論十二分に認識されていたし、彼自身にとってはポルトーログレスの建設もあくまでもフリールの補完(商港および海軍基地)として、相互補完・相互発展を願っていたと言うのだから、何とも皮肉であるとしか言いようがない。
事実、ガロナ河拡張・ポルトーログレス建設が終盤に入った後は、機材と人員の続いての配置先候補の筆頭にフリールの名を挙げた資料が複数残ってもいる。
逆に言えば、フリールの再整備を腰を据えて行うために、その間の港湾機能低下分の受け皿として活用する為に、先にポルトーログレスを整備したのだと言う見方は、間違いない真実であろう。
悲しいかな、若き国王の熱意と誠意は紛うなき本物ではありながら、それも若さの故と言うことなのであろうか? ほんの僅かだけ、そこには何かが足りなかった。
そしてフリールの人々の多くもまた、何も自分たちの利権だけで考えていたと言うわけでは無く(そもそも河港であるポルトーログレスの立地を見れば、拡張限度上からもフリールの代替には絶対になり得ないと言うことは、少し考えれば判ることだ)、それと同等かあるいはそれ以上に、現国王の代になって唐突かつ理不尽にないがしろにされたと言う思いが強かったのだ。
ほんの僅かな双方の齟齬はしかし、それを好機と権力や利権を争い合う貴族や豪商達と言う内なる敵と、そしてこの奇貨を逃さずにエルーラン王国を更に弱体化させようと言う諸勢力(諸外国はもとより、噂の域は出ないとは言え、このエリンディルの歴史上の闇に暗躍すると言われる組織の介入までも挙げられている)の思惑や蠢動までも深く複雑に絡み合い、やがて大叛乱と言う悲劇へとまっしぐらに突き進んで行くことになったのだった。王国と国民の現在と、そして未来のためにと。良かれと思って始めたことが、その意図とは裏腹に大きく国を乱し、多くの犠牲と混乱を生じさせてその国力を大きく損なわせる結果となってしまったと言う痛恨の事実は、エル13世にとって大いなる挫折であった。
叛乱を鎮める過程において、政治的妥協として改革路線の中止と撤回をも余儀なくされ、ことによっては却って改革前よりも後退させられてしまったものさえも少なからずあったくらいだ。
更には激動する情勢への対処にと追われ続けていた結果、顧みる余裕も無くなってしまっていた内廷においても、まだ幼い嫡男以下、正妃や寵姫たちとの間に生まれた子女が次々と亡くなる(明らかに不自然な死に方も窺える)と言う不幸にも見舞われ、数年に渡って続いた大混乱がようやくひとまずの収束を見た時、エル13世はその実年齢からすれば信じられない程にすっかりと老け込み、かつては漲っていたその情熱も気力も完全に枯渇し切っていた。
以来30年あまり。エル13世は何一つ自身では決めようとはせず、重臣達の決定をただ追認するのみの「無気力王」と揶揄される様な君主にと成り果ててしまっている。
しかし、この新しき街ポルトーログレスの住人となった人々にとってはエル13世が親にも等しい大恩人である事には変わりなく、世代を重ねた現在でもなお、ポルトーログレスにおいてはエル13世の人気は高く、敬愛と感謝の念を抱き続けている住人が多い。
そして、この様な下地の元に、大叛乱の動乱のさなか自然発生的に誕生したのが、後の「王立銃士隊」のその前身となる義勇民兵組織であった。
民兵組織と言うだけに、装備や練度、規律と言った全ての面においてそこには自ずと限界があるのが常ではあるのだが、しかしことこの場合に限ってはその常識の当てはまらない、なかなかに稀有な実例となっていたのである。
この新たな街が誕生した経緯についてはここまで述べて来た通りであるが、その住人となった人々についてもまた、その大事業にと従事しに王国中から、あるいは他国からも集まって来た者たちが大多数であり、事業への従事を通して職を得るのはもちろんのこと、それを通してエル13世の企図した通りに希少性の高い錬金術士としての技術までをも身に付けることの出来ていた者たちが、その中にはかなりの比率で存在したのだ。
錬金術士としての心得のある者たちが多数を占めていたと言う特性から、ここで立ち上げられた義勇民兵組織においては剣ではなく、錬金術士たちのみが扱える武器である銃(錬金銃)をその象徴〈主力武器〉としていた。
後年、この時の彼らに始まる組織を母体に立ち上げられることとなる「第三の常備軍」を目指す部隊に対して、「銃士隊」と言う名が下賜される事となる。その下地は既に、この時から出来上がっていたのだと言えるのかもしれない。
話を戻して、銃士隊の前身たる義勇民兵組織の実力が通常のそれとは同一視は出来ないレベルにあったことの下地に関しては、希少性のある銃と言う武器を主軸に据えていたと言う特性もさることながら、実はそれを扱う義勇兵達の以前の経歴にもその理由が求められる。
実は彼らの中には、現在でこそシビリアンの職人や技術者として暮らせるようになってはいるものの、元々は喰うために傭兵や冒険者として生計を立てていた(そうするしか無かった)者たちが相当数含まれていたからだ。
エル13世の改革は、そんな彼らに安定した生計の道を与えようと言うものでもあったわけだから、そうした層である彼らの中から「その恩に報いん!」と言う人々が少なからず自発的に出て来たと言う事実は、いささか皮肉な形でではあるだろうが、エル13世の試みようとした改革の方向性そのものは、当時のエルーラン王国にやはり必要とされるものであったと言う事実の証左でもあろう。
ともあれ、そうして〝素人でない〟錬金術士達がかなりの比率を占め、年齢や経験、技量に応じての適宜な配置を組み上げての統率を行き届かせることで、この義勇民兵組織はなまなかの傭兵団など軽く凌ぐ程の実力を当初より有していたのだった。
基本は治安警備任務ではあったものの、赤枝の騎士団の留守を狙って来た海賊団の殲滅や、複数の山賊団と流乏の傭兵団が結託した雑軍団を見事に撃退したランヌ湖畔の会戦等の実戦もその混乱の中で経験している。
彼らのこの活躍は、当時燃え尽きつつある途上にあったエル13世にとってのささやかな慰めでもあったのだろう。
完全に燃え尽きる直前の最期の余熱の産物よろしく、この義勇民兵組織はその忠義と働きぶりを賞され、混乱収束の後にもポルトーログレスとその近辺の治安警備を引き続き任される、小規模ながら常設の組織としての存続が決定された。
それからおよそ30年近く。一応の平穏が続く王国内の情勢の中、特に名を上げることも内外に知られることも無く存続し、地道にその任務を果たし続けて来た義勇民兵組織にも、大きな転機が訪れる時が来た。
神聖ヴァンスター帝国の成立と大陸侵攻に端を発した、エリンディル西方世界全体の国際情勢の激変である。
30年前の大混乱の時とは異なり、今度は内憂のみならず外患もと言う話になるが、エルーラン王国においては、相手の急激な膨張によって直に国境を接することとなった神聖ヴァンスター帝国との対峙。更には国内においても突如として発生した、王国南端のブルタール半島における妖魔の軍団の大蜂起と言う事態により、内外の二方面で同時に脅威を抱える状況下にと陥った。
この脅威に対抗する赤枝の騎士団であるが、二正面作戦を余儀無くされる状況もあって、大叛乱時代以来となる予備役の動員や、選抜基準を緩和させての入団枠の拡大による戦力増強を図っているものの、30年近く続いた平和の影響か、常備の正規騎士団員と非常備の予備騎士団員との間の著しい質の格差が懸念されているところであった。
その様な情勢の中、かつての大叛乱の時代に活躍した平民達の部隊の存在が、再びクローズアップされることになる。国王エル13世の年の離れた異母弟であるケストナー卿が、ひょんなことからポルトーログレスの治安を守る平民主体の義勇民兵組織の存在とその実力にと自ら接っし、俗な表現ではあるが「手垢の付いていない組織」としてのそのポテンシャルにと気付いたのだった。
かくしてケストナー卿の働きかけにより、それまではあくまでも義勇民兵組織であった彼らは、正式に王立の部隊として認可されることとなり、ここにエルーラン王立銃士隊が発足する。
赤枝の騎士団の主力が、内外の前線にと張り付かざるを得なくなってしまっていると言う状況はかつての大叛乱時代とも酷似しており、新たに発足した銃士隊に期待される役割もまた、その時と同様のものであった。
かくしてポルトーログレスから誕生した「エルーラン王国第三の常備軍」を目指すこの新たなる組織は王都ログレスへも進出を果たし、赤枝の騎士団と共に治安警備任務にと当たることになる。
平民主体の部隊と言うことで、赤枝の騎士団や大貴族の護衛隊等からは低く見られがちであるし、その存在も王宮などでは無名に近かったものの、身分の貴賤を問わず意志と才能が有ればの方針による多彩な人士が集っての最近の拡充ぶりと共に、街すずめ達はもちろん、王宮内でも話題になる程の活躍を幾つも見せている、今後が楽しみな組織である。
バジル:国王陛下って凄い人だったんだな。
アコさん:ここに書かれている事は紺碧さんの創作ですが、公式設定でも昔は政務に情熱を燃やしていたことを匂わせる表現もあるそうですね。
バジル:紺碧さん、ありがとう。あなたがポルトーログレスの設定を作ってくれたおかげで、俺たちは旨い酒や魚が味わえる。
レイ:今お酒と言いましたね!? お酒は何処ですか!?
バジル:……お前すっかりオチ要員になってるぞ?