再び隼人の配属初日。


 転生者の青年は最高潮のテンションで、メンテナンス中の〔一式戦闘機 隼〕を見つめていた。
 士官学校や、訓練部隊でも〔隼〕は乗っていた。
 しかし、それはあくまでも訓練用である。複数名での使いまわしが前提で、自分が使う為だけのものではない。
 今、エンジンをならしている機体は、隼人が使用する為に整備されたものである。タイプもダバート王国仕様の|簡易生産型《モンキーモデル》では無く日本陸軍が使用している物と同じ純正型で、エンジン出力がアップし、効率の良い三枚プロペラが使用されている。

(前世で言ったら〔Ⅲ型〕だな。ただ高品質の燃料を使ってるから、航続距離は改良前からさほど落ちてない。火力は前世と同じだけど、焼夷炸裂弾マ弾は空気式信管使用の新型がもう使われてる様だし、プロペラ効率も無線機の性能も別物。ああ、早く乗ってみたい!)

 この青年、戦争に来たと言うのに、悲壮感は皆無である。
 それどころか、早く飛びたいとそわそわする始末。
 南部隼人少尉は中肉中背、ころころと変わる表情。身だしなみに気を使ってはいるが、必要以上の手間はかけない。後に彼を評する人物は「少年がそのまま大人になったよう」と口を揃える。良く言えば型にはまらないが、悪く言えばあか抜けない。そんな青年である。
 彼とて、正規の士官教育を受けたエリートである。国民の為に死ぬ覚悟もあれば、非常な決断を下さねばならない士官の業を十二分に心得てもいる。指揮官率先の心構えも叩き込まれていた。
 しかし、飛行機を前にすると、子供に戻ってしまうのがこの青年の美徳であり悪癖だった。彼の邪気の無さは、時として人を強く惹きつけるが、同じように苛立たせもする。
 そして、この時はそれが悪い方に出た。
 傍らの樋口哲也軍曹が、軽く舌打ちをした事に気づかなかったのだ。

「では、1対1の模擬戦を行います。相手は私が務めますので」

 マヤ・サヴェートニク曹長に無表情のまま告げられ、我に返る。 昨日の歓迎会以来、ずっとこんな調子でコミュニケーション取れるのかと流石の隼人も不安になったが、誰に対してもこんな感じなので、別に邪険にされている訳では無い様だ。 樋口軍曹に視線を移すと、見事に目を逸らされた。こちらの方が先行き不安かも知れない。

「タイでやるのか? 編隊訓練ではなくて?」

 マヤは相変わらず感心なさげに、「まずは腕を見たいので」と告げる。 隼人は深く考えず、「そうか」とだけ答え、飛行帽をかぶる。



 「竜殺し」の偉業を成し遂げた英雄にして、数々のエースパイロットを育て上げた伝説の飛行機乗りは、その華々しい戦歴を称賛されると、いつも苦笑しながら「最初は酷いもんだったよ」と返したと言う。
 彼を良く知る人間を除き、「またこの人は謙遜している」と称賛したものだったが、死後半世紀後に、彼の弟子たちが代々受け継いだと言う、クロア着任後の訓練記録を記した数十冊のノートが公開されると、その言葉が謙遜などでは無いと明らかになった。
 1勝も出来なかった初の模擬戦に始まり、黒星の連続である。

「何故貴方は英雄になれたのでしょうか? やはり不断の努力の賜物でしょうか?」

 生前にそう質問された彼は、静かに笑って首を振ったと言う。

「とんでもありません。私はただ人に恵まれた。ただそれだけの事ですよ」

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