南部隼人の飛行機講座

■日本陸軍の「じゃない方」戦闘機

隼人:さあ、〔ゼロ戦〕の解説で掴みはOKと言ったところだ。そろそろ主役の〔隼〕の解説を始めようか。

一式戦闘機隼

マリア:でも、前から思ってたんですけど、〔隼〕ってよく地味って言われますよね?

隼人:ぐはあ! 陸軍ファンが一番言われたくない話題ベスト3を突いてくるとは!

隼は地味!

マリア:そ、そんなに気にしてたんですか?

隼人:ちなみにあと2つは「陸軍の戦車って強力ですよね?」「牟田口将軍って有能ですよね?」が続く。興味ある方はググれば山ほど悪評情報が出てくるので試してみて、どうぞ。

マリア:で、思うんですけど、〔隼〕って〔ゼロ戦〕の下位互換だと思ってる人も多い気が……。

隼人:言ってはならんことorz。まあ確かに、でも〔隼〕には〔隼〕の良さがあるんだ。

マリア:例えば何でしょう?

隼人:翼の形がカッコいい! 胴体からシャキーンて直角に伸びた主翼が何とも言えん! 機首から尾翼にかけてのラインもすらっとしてカッコいい!

隼の萌えポイント

※作者注:〔隼〕と〔ゼロ戦〕の体形比較画像は下記のサイトに載っております。
一式戦闘機「隼」研究所
http://home.f04.itscom.net/nyankiti/ki43-top1-page1.htm

マリア:あの……兄さん?

隼人:〔隼〕を主役(重要!)にしたアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」のCGモデルを担当したスタッフによると「監督に『〔ゼロ戦〕を主役にする選択肢は無い!』と断言され、〔隼〕のCGをコツコツ描いてたら、だんだん〔ゼロ戦〕が野暮ったく見えてきて……」とインタビューで答えておる。

マリア:兄さん? コンテンツの趣旨から光の速さで逸脱してますよ?

マリア(汗)

隼人:すまん。じゃあ〔隼〕がどんな飛行機か、前世の歴史から見ていこう。



■史実の〔隼〕

マリア:では、隼が開発された経緯について。

隼人:隼は大日本帝国陸軍が開発した主力戦闘機だ。

マリア:そう言えば、ライズは空軍があるのに、日本は陸軍と海軍が別々に飛行機を運用してるんですね。

隼人:当時は陸軍と海軍が別々に航空隊を持っているのは、別に変な事じゃなかった。
 アメリカもそうしていたし、空軍を早期に設立したイギリスなんかは、「あいつらは俺達の予算を奪ってゆく」と陸海軍からバッシングされ、やっと空軍が存在価値を認められたら、今度は空軍が発言力を持ちすぎて、海軍航空隊に飛行機が回ってこなくなって困っている。

マリア:お役所のやる事は何処も同じですね。

隼人:ライズは昔からワイバーン騎兵が空戦を行っていて、既に空軍に当たる組織が存在感を確立していたから、時代の趨勢が飛行機になってもそのリソースを利用できたわけだな。

逆に日本は組織間や制度の調整を十分に行ってから、三軍体制に移行する方針のようだが、俺の前世でも空軍設立に尽力する人々もいた。

マリア:何でしなかったんですか?

隼人:憲法だ。大日本帝国憲法の第11条に「天皇ハ陸海軍ヲ統帥(とうすい)ス」と書いてあったので、「空軍を新たに作ったら陛下の権限を犯してしまう」と言う意見がまかり通り、空軍設立論は臭い物には蓋で潰されてしまった。

マリア:憲法を変えれば良いじゃないですか?

隼人:日本人は改革を決めた時に、その時最善の制度を作るのは上手いが、一度決めた事をちょこちょこ直してゆくのが極端に苦手なんだよ。

マリア:理解に苦しみますが……。

隼人:文化や気質による弱点はどの民族にも存在するぞ。俺達ダバート人だって、演劇が絡むと刃傷沙汰も起こるだろ? 
 弱点を自覚してどうすれば良いのか考えればいいだけの話だ。

マリア:成程。で史実の話に戻りますが、〔隼〕登場の経緯を教えてください。

隼人:〔隼〕は当時の主力戦闘機である〔97式戦闘機〕を更新する為に設計された。こいつは運動性が抜群で射撃時の安定性もいい。世界最高クラスの軽戦闘機だった。

マリア:あれ? それ、第一回の時も同じような話を聞いたような……。

隼人:勘が良いな。陸軍は制作を請け負う中島飛行機にこう命じた。

・97戦より早く

・97戦より遠くに飛べて

・戦えば97戦より格闘性能が良い

マリア:ゼロ戦の時と全く一緒じゃないですか! 大体、求めるところが一緒なら、新たに作らなくても、海軍のゼロ戦を使えばいいじゃないですか?

隼人:当時の陸海軍の風通しが悪くてな。あとは、陸軍と海軍の戦闘機は一見コンセプトが似ているようで想定していた用途が全く違うので、別々の機体を用意するのは当然の事だ。
 もっとも、いざ戦争が始まってみると「〔隼〕と〔ゼロ戦〕って割と用途が被ってきてね?」と言うオチが付くのだが。結局流れたが、〔隼〕と〔ゼロ戦〕を陸海軍で融通し合う話もあった。

マリア:うーん、なんだか泥縄ですね。

隼人:技術なんてそんなもんだ。良かれと思ってやったことが時代の趨勢と真逆だったなんて話は、何処にでも転がっている。

マリア:それで、〔ゼロ戦〕が軽量化で解決した問題を〔隼〕はどう対応したんですか?

隼人:その前に、陸軍と海軍の戦闘機に対するスタンスを説明しておこう。
 まず陸軍だが、当時の考え方として「重武装と高速を武器にした重戦闘機」と「武装や速度より軽快な運動性を優先した軽戦闘機」を両方造って、用途に応じて使い分けようと言う考え方をしていた。これは戦後に生まれた「ハイ・ローミックス」と言う考え方に通じる。

マリア:ふむ、では海軍は?

隼人:海軍の戦闘機は航空母艦でも運用しなければならない。空母に積める飛行機は限られているから、「装甲の厚い爆撃機が攻めてきたから、もっと強力な武装を持った戦闘機に任せる」と言ったことは出来ない。
 基本、限られた機種で何でもこなさなければならないから、海軍が飛行機に対して「あれもやれ、これもやれ」と要求を吊り上げる傾向にあるのはそんな背景もあるように思える。
 だから、海軍の〔ゼロ戦〕は20mm砲を搭載して戦闘機と爆撃機の両方と戦える戦闘機になった。

マリア:〔隼〕は違うんですか?

隼人:陸軍は飛行場で飛行機を使うから、海軍程制約がない。〔隼〕は軽戦闘機として設計し、重戦闘機は別に造る事にした。
 おかげでコンセプトを「火力とかいいから、小回りが利く戦闘機にしてくれ」と絞る事が出来た。多芸より単能の方が造り易いのは道具の宿命だ。
 そのせいで〔隼〕は〔ゼロ戦〕を超える格闘性能を発揮したが、代償として時速にして30km以上も鈍足で、武装も〔ゼロ戦〕の4門に対して、〔隼〕は2門だけ。「〔隼〕は〔ゼロ戦〕に比べ地味」と言う印象はここら辺から来ると思う。

マリア:〔隼〕の軽武装って、時代に逆行してますよね?

隼人:まあな。世界に目を向けても、登場時は軽戦闘機だった〔スピットファイア〕は火力強化に走るし、格闘戦を重視したソ連戦闘機も武装は強力なものを持っていた。終戦まで機関銃2門で頑張った〔隼〕は異端と言って良い。

マリア:強化しなかったんですか?

隼人:リソースが無かった。武装の強化には主翼の設計変更が必要だったが、武装の貧弱さが問題になった頃には、もう新型機の開発が始まっていて、設計を担当する中島飛行機の小山技師はそちらにかかりきりになってしまった。
 日本は設計技師も限られていて、人材の層が厚いアメリカの飛行機産業の様に「新型機を送り出したら、改良は別チームに任せて、主力チームは更なる新型機の開発に専念する」みたいな贅沢はできなかったんだ。だから、小規模な改良しかできなかった。

マリア:じゃあ、いっそ〔ゼロ戦〕の一本化するとか。

隼人:だから陸海軍で飛行機を融通し合う話が出てきた。結局駄目になったわけだが、セクショナリズムの弊害は日本の敗因としては代表的なものだな(筆者注:後に別の機体で実現してます)。

マリア:何というか、せっかくいい飛行機を造ってもそれじゃあ技術者が浮かばれませんね。

隼人:まあ、だから負けた訳だが……。

マリア:ああ……(頭を抱える)

隼人:さて、次は〔隼〕が〔ゼロ戦〕より優れている点を紹介しよう、まず第一に「値段が安い!

マリア:えっ、いきなりそれを挙げますか!?

隼人:コストは大事だぞ? 一説には「〔ゼロ戦〕は凝りすぎて製造工数が米軍機の4倍」と言われているの中で、〔隼〕は大量生産をある程度意識した造りになっている。
 代償として速度性能は大きく劣ったが、製造が簡単という事は整備も簡単という事だ。当時の日本軍は基本的に遠征軍なので、このメリットは大きい。

マリア:ううむ、なるほど。

隼人:それから、〔ゼロ戦〕が装備しなかった防弾装備の搭載を考慮に入れて設計されているおかげで、防御力は〔ゼロ戦〕より上だ。
 これは先代の〔97戦〕が重武装のソ連戦闘機に苦戦した事でパイロットを守る必要を用兵側が痛感していた事による。パイロットが死んだら機体が無事でも戦えないからな。

マリア:具体的には?

隼人:まず、先述のゴムで覆われた防漏タンク。パイロットの戦死は機体の火事によるものが多いと言う説もあるから、これは有効だった。
 次に、操縦席の後ろについた13mm厚の防弾板(改良型の〔Ⅱ型〕から装備)。米軍のテストでは「米国製の機関銃を防げない。こんなもん無いのと同じ」と言うレポートが出てるが、「こいつのおかげで死なずに済んだ」と言う日本軍パイロットの証言もあるしし、「ミスってもまだ防弾板がある」と言う心理的効果は意外に大きい。

マリア:それならその戦訓を海軍と共有すれば良いのでは?

隼人:……まあ、日本軍あるあるだな。

マリア:あんぐり。

隼人:後は「武装を強化する余地がない」と言う縛りがあったせいで、海軍が陥った「あれもこれも病」にとらわれない改良が行われた。
 主翼の改造による武装強化は放棄して、「エンジンを強化して鈍足を何とかする」と言う一点に絞った改良が行われた〔Ⅲ型〕が、「ベテランの乗った〔隼〕は侮れない」と言う評価を米軍から受けたのは、第1回で述べた通りだ。
 特に、ビルマ戦線の〔隼〕は、レーダーとの連携を積極的に行った結果、〔スピットファイア〕や〔ムスタング〕といった圧倒的多数の上位機種相手に、互角の戦いを演じている。俺が所属する飛行第64戦隊も、史実ではここで戦っていた。

マリア:戦いは数じゃなかったんですね兄さん!

隼人:お前、それが言いたかっただけだろ!?

マリア:ええ、割と♪

マリアてへぺろ

隼人:ま、まあ、飛行機に限らず道具と言うのは「どう使うか」が重要な訳だ。〔隼〕はそう言った意味で日本軍の身の丈に合った戦闘機であり、だからこそ戦術とパイロット次第で活躍ができた。

マリア:なるほど! 〔隼〕は、地味だけど侮れない、いぶし銀な戦闘機なんですね!

隼人:おお! 分かってくれたか!

隼はいぶし銀の凄い奴なのだ!

マリア:でも、やっぱり地味です。

隼人:ぐさあっ!



■「王立空軍物語」の〔隼〕

マリア:では、例によって作中の〔隼〕が史実とどう違うのかを教えてください。

隼人:例によって基本変わっていない

マリア:ガクッ、またですか!

隼人:ただ、日本本国の一部部隊が使用している〔隼〕は相当に強化されているらしいな。
 エンジン出力も2割増しで、過給機と言うエンジンを強化する装置もライズ製より強力なので、高高度を飛行しても性能が落ちない。クロアには投入されて無いが。

マリア:えっ? 何でですか!?

隼人:日本とダバートの工業力格差のせいだ。ダバートがライセンス生産(権利を買って製造すること)している〔隼〕は大量生産を前提とされ、同盟国や友好国に大量供与されている。
 ダバートは日本の支援で産業用トラックを量産しているので、ノウハウが全く無い訳じゃないが、それでも数千機の戦闘機を大量生産してあちこちにばらまくのは王国始まって以来だ。
 そんな状態でいきなり製品をスペシャルな仕様にしてみろ。現場は大混乱だし、整備不良の機体が続出するぞ。高性能なエンジンや過給機はレアメタルを大量に使うから、どうしても高価になるしな。

マリア:つまり、一度質を落とした物で慣れさせてから、次の段階に移るって事ですね?

隼人:そうだ。勉強だって、いきなり難しい問題を解くより、簡単な問題から解いていった方が効率がいいだろ?

マリア:え? 私士官学校の入学試験は最初から過去問題を解いてましたけど? 別にそんなに難しくなかったですし。

隼人:ごめん。お前への説明で勉強に例えるのは間違いだった(……これだから天才は)。
 そんな訳で、俺が乗っている〔隼〕は艤装や燃料が格段に良くなっている他は、基本的に史実の〔隼Ⅲ型〕と同じだな。その辺の事情は第1回で説明済みなので、今回は語らないが。

マリア:なんか、「王立空軍物語」って〔隼〕がどうこうじゃなくて、メカ物なのにその辺が随分と地味ですよね?
 もっとスペシャルなチート戦闘機が〔グラマン〕や〔ムスタング〕をバシバシ落すみたいな展開かと思ってました。

隼人:作者のはぎわらも、そこら辺葛藤があるらしい。好きな飛行機を活躍させたいけど、あんまり強化しちゃうと機体の持ち味が消えちゃうし、そもそもその機体が生まれるかも怪しくなるからな。

マリア:なんか、SF小説の「親殺しのジレンマ」を思い出しました。

親殺しのジレンマと架空線機

隼人:まあ、似たようなもんだ。ただ、日本側も〔隼〕の生産でダバートの大量生産技術は随分向上していると見ている。「次」の機体から、日本仕様とライズ仕様の枷は取り払われるらしい。

マリア:と言う事は?

隼人:国力が強化された日本から、強力な機体が次々提案されると言う事だ。「次」は何なのか、それについては触れない。是非本編を読み進めて頂きたい。

マリア:そんな! 兄さんのいけず!

隼人:まあ、楽しみは今後に取っておこうじゃないか。2号メカへの交代劇はメカ物の醍醐味だしな。

マリア:じゃあ! 新型機が投入されるまで、他の飛行機について話して下さい!

はぁと

隼人:お前の飛行機好きも相当なもんだな。

マリア:それ、兄さんにだけは言われたくないです。


第3回に続く