マリア:兄さん兄さん。

隼人:どうしたマリア?

マリア:「王立空軍物語」がいよいよ始まったった事ですし、ここで登場する飛行機についておさらいしておくのも良いと思うのですが。

隼人:そうだな。作者のはぎわらが本作を執筆する理由も、「レシプロ戦闘機のカッコよさを色んな人に知ってもらいたい」と言う事らしいので、ここで解説しておくのも趣旨に合うかもしれないな。

マリア:もっとも、作者は飛行機好きの素人ですので、技術書や原語の資料などを当たっている訳ではありません。
 ここで語るのは「面白さ」重視で、資料価値は皆無です。
 独自解釈や「こうだったらいいな」的願望マシマシで大変胡散臭い仕様なので、興味を持った方は是非ちゃんとした解説書を読んでみてください♪


◆◆◆◆◆


隼人:さて、最初に解説する飛行機だけど、日本で最も有名な戦闘機を解説せねばなるまい。日本海軍の至宝、〔零式艦上戦闘機〕、通称〔ゼロ戦〕だ。

零式艦上戦闘機

マリア:あれ? 兄さんが乗ってる〔隼〕や〔疾風〕じゃないんですか?

隼人:いや、「やっぱメジャー処から攻めておこう」と言う作者の日和見によって第1回は〔ゼロ戦〕になったようだ。

マリア:身も蓋も無いですね……。

隼人:知名度ってそれだけ大事なんだよ。登場するモビルスーツがバタラとドガッシャだけのガンダムとか見たいか? 俺は見たいが絶対売れん!(ぐっと拳にぎって)

マリア:兄さん、番外編で変なキャラ付けないでください

マリア(汗)

 話を戻しますが、一口に〔ゼロ戦〕と言っても、日本海軍で試作された〔53型〕は、新開発の100オクタン/130グレード燃料のおかげで、〔栄〕エンジンに二段式の過給機を搭載してブースト圧も相当上がってますし、緊急出力を使用すれば離昇で……。

隼人:ちょっと待った!

マリア:

隼人:ここは初心者向けコンテンツだぞ? 専門用語の羅列は避けるんだ。

マリア:そうでした。では、これから私は〔ゼロ戦〕について知らないと言う前提でお話しさせて頂きますね。
ところで、兄さんはあの機体を〔ゼロ戦〕って呼ぶんですね。〔零戦(れいせん)〕って呼ぶ人も居るみたいですが?

隼人:実はどっちでもいい。〔ゼロ戦〕が活躍した先の大戦では、マスコミを中心に、英語を使わないよう自主規制する動きがあった。
 「英語を使わない戦前なら、“ゼロ”という名前は使われなかった筈」という誤解から、近年は皆〔零戦〕と呼んでいるが、実際にこの飛行機を運用していた日本海軍では、「零戦」「ゼロ戦」のどちらとも呼んでいた。
 なので、どちらも正しい

マリア:本編では空軍のサミュエル少佐が乗ってますけど、本来は海軍が使っていたんですよね?

隼人:じゃあ、まず史実の〔ゼロ戦〕について見てみよう。



 ■史実の〔ゼロ戦〕

隼人:「艦上」って言うのは、「航空母艦で使う」という意味だな。もちろん陸上の飛行場でも使えるが。
 おっと済まん。まずはゼロ戦が登場した背景を、ちゃんと語らなくてはな。当時、俺の前世では日本は中国と戦争をしていた。

マリア:あれ? 兄さんの前世ではアメリカと戦っていたんじゃないんですか?

隼人:アメリカとも戦争になる。中国との戦争が拡大して、アメリカとの戦いになったんだ。

マリア:何だか、戦争漬けの国ですね。

隼人:そう言われると言葉もない。まあ、とりあえずその辺の事情は触れない。中国は広い。都市や飛行場を攻撃に行く爆撃機が、戦闘機の護衛を受けられず、被害を受けるようになった。戦闘機の航続距離(飛べる距離)が足りず、爆撃機に付いていけなかったんだ。

マリア:そ、そんな遠くまで戦線を拡大して、大丈夫だったんですか?

隼人:勿論大丈夫じゃなかったんだが、まあそれは置いておこう。爆撃機を守るため、海軍は新型戦闘機の開発をメーカーに指示した。この仕様だけど、大まかに言って。

 

●今までの戦闘機より速く

●今までの戦闘機より遠くまで飛べて

●今までの戦闘機より格闘性能が良い

 

隼人:というもの。

マリア:今までの戦闘機ってどんなものなんでしょう?

隼人:〔96式艦上戦闘機〕っていうんだが、素晴らしく格闘性能のいい機体だった。

96艦戦

 当時の技師達は頭を抱えた。〔96艦戦〕より高速にするには、〔96艦戦〕より重くて強力なエンジンを積まねばならない。だけど、そうすると〔96艦戦〕より重くなって、格闘性能は落ちる。

マリア:それ、無理じゃないですか!

隼人:メーカーも「そんなん出来るか!」と逃げ出し、最終的に三菱重工が残った。

マリア:まだやる会社が残っていたのですね。

隼人:矢面に立ったのは堀越次郎技師。彼は、機体を徹底的に軽量化する事で、海軍の無理な要求に応えようとした。

マリア:それで、どうなったのですか?

隼人:完成した〔ゼロ戦〕の性能は、以下の通りだ。


●零式艦上戦闘機21型

エンジン:〔栄12型〕(940馬力)

全備重量:2421kg

最高速度:533.4km

航続距離:3350km(燃料タンク増設時)

武装:20ミリ機関砲2艇
   7.7ミリ機銃2門

 

マリア:か、軽い、そして速い! しかも、3000km以上も飛べるなんて、旅客機より凄いじゃないですか!

隼人:当時ベストセラーだった双発(エンジンを2つ積んだ機体)旅客機〔ダグラスDC3〕が2,420kmだから、それより1,000km近く遠くに飛べることになるな。

マリア:小型機なのに旅客機より遠くに飛べるんですね

隼人:3300kmと言うと、大体択捉島(日本の北端)から与那国島(日本の西端)と同じくらいの距離だな。他の例を挙げると、月の直径(3474km)よりやや短いくらい。

マリア:そう考えると凄いですね。

隼人:言ったろ? 徹底的に軽量化したって。それはもう、余分な個所は徹底的に肉抜きして軽くする徹底ぶりだったそうだ。また、低速時の旋回性能も大変よく、これがゼロ戦に無敵の格闘性能を与えた。
 比較対象に、ライバル機であるグラマンF4F〔ワイルドキャット〕の性能も挙げておこうか。

F4F-4 ワイルドキャット

●ワイルドキャット(F4F-4型)

エンジン:〔1830-86ツインワスプ〕(1200馬力)

全備重量:3359kg

最高速度:515km

航続距離:約2600km(燃料タンク増設時)

武装:12.7ミリ機関銃6艇

 

マリア:こっちは260馬力も上なのに、15キロも遅いです。重量が1トン近くも重いせいですね。

隼人:〔ワイルドキャット〕も素晴らしい飛行機なんだがな。ゼロ戦対策が確立されるまでは、彼らは不利な格闘戦を挑み、撃墜されていった。

マリア:まさに黄金時代ですね。

隼人:あと、20mm機関砲(海軍の名称では「機銃」)を装備している事も大きい。これによって〔ゼロ戦〕は重爆撃機とも戦える事になった。

マリア:20mm機関砲って、本編でも多用されていましたが、アメリカの12.7mm機関銃より大威力なんですよね。

隼人:〔ゼロ戦〕が使っている〔99式20mm機銃〕は戦後の評価で「旋回しながら撃つと弾がまっすぐ飛ばない」とか「すぐに弾切れになる」とか散々な言われ用をしているが、「威力が高いのに軽量」と言う強みがあり、米軍のパイロットから「頑丈な米国製戦闘機でも1発食らえば大ダメージを受けるので、〔ゼロ〕との戦闘はプレッシャーを感じた」と言う評価が出ている。

 やはり強力な武器である事は確かだ。上に挙げた欠点も、改良型では改善されてるしな。

99式20mm機銃
99式20mm機銃

マリア:20mm砲はその後殆どの国が戦闘機に装備していますから、先見の明があったと言えますね。

隼人:そう、ゼロ戦は中国で、太平洋で勝ちまくった。アメリカ軍は「ゼロと格闘戦は絶対するな!」と布告を出した事が有名だ。だが、太平洋の戦いが進むにつれて、次第にその弱点も明るみに出てくる。

マリア:私は軽量化のし過ぎが問題点だと見ましたが?

隼人:その通り、初期型の〔ゼロ戦〕は、軽量化のやりすぎで、一切防弾装備を持っていなかった

マリア:ちょっ、そんな飛行機に乗せられるパイロットが可哀そうです!

隼人:登場時は他国でもまだ防弾板を標準装備していない戦闘機も多く、手探りの状況だったので、この点において海軍がそれほど定見を欠いていた訳では無いと思う。
 しかし、戦況が悪化してパイロットが払底しているのに、改良型に防弾板を載せなったのはまずかった(※諸説あり)。おかげでパイロットの喪失に拍車がかかった

マリア:ああ……。

隼人:それから、機体が華奢で、急な機動を行うと、空中分解する恐れがある。
 そして、何よりまずいのが、設計に余裕がなさ過ぎて、大規模な改良が出来ない事だ。〔ワイルドキャット〕はエンジンの強化と軽量化で〔ゼロ戦〕を追い越す高性能を示し始めたのに、こちらの改良は頭打ち。
 おまけに敵は新型機を次々に送り出してくるのに、日本はゼロ戦頼みから脱却できない。
 更に、アメリカに1機が鹵獲ろかく(敵の武器を奪い取る事)されたことで、徹底的に調べられ、対策を立てられる。

マリア:どうしたんですか?

隼人:1対1での戦いを止めた。2機が無線により連携し、S字を描いて飛びながら、片方がひきつけて片方が後ろから攻撃する「サッチ・ウィーブ」という戦法を編み出した。
 これは、凄腕のベテランパイロットなら回避できたものの、そうでない者は次々撃墜されていった。

マリア:後継機はどうしたんですか?

隼人:様々な理由で、遅れた。そうこうしているうちに、アメリカは〔ワイルドキャット〕の後継機であるF6F〔ヘルキャット〕を実戦投入した
 こいつは、2000馬力エンジンを積んで、ゼロ戦より高速で飛ぶくせに、旋回性能もゼロ戦にやや劣る程度。火力も優れているし、防弾も過剰な程に為されていた。

F6F ヘルキャット

 アメリカはもっと高速な戦闘機も次々送り出すんだが、当時の日本軍パイロットの多くは「グラマン(〔ヘルキャット〕)が一番嫌だった」と証言している。旧式の〔ワイルドキャット〕にも敵わないのに、こんな奴に新米パイロットが勝てるわけがない。

マリア:じゃあ、〔ゼロ戦〕は駄目な飛行機だったんですか?

隼人:そうじゃない。基礎工業力に劣る日本が、アメリカに対抗する飛行機を作るには、徹底的に軽量化するしかなかったんだ。
 改良に失敗したとはいえ、工業力に劣る日本が、アメリカやイギリスに対抗できる機体を生み出したのは、素直に誇っていいと思う。
 それに、この飛行機は日本人と言う民族の良い所と悪い所を象徴するような機体だ。
 エンジンの貧弱さを補うため、とことん工夫して工夫して、一時的にしろ基礎工業力の差をひっくり返してしまった。しかし、なまじ工夫で何とかなってしまう為に、根本的な問題解決が先送りされ、その代償は現場が背負う事になる。〔ゼロ戦〕は日本人の素晴らしさと悲しさを体現する飛行機だ。

マリア:基礎工業力の劣るですか。ダバートも他人事ではありませんね。

隼人:それを何とかするために、俺達がここにいるわけさ。

 



『王立空軍物語』の〔ゼロ戦〕

マリア:「史実」の〔ゼロ戦〕については分かりました。ではライズで使用されている〔ゼロ戦〕はどうなんでしょうか?

隼人:実は……。

マリア:実は?

隼人:基本設計はほとんど変わってない。

マリア:え!?

隼人:だってそうだろ? こっちの日本でも海軍が三菱に発注したコンセプトは、やはり“爆撃機とも戦える長距離戦闘機”だったし、技術オタクの海軍があれもこれもと要求を吊り上げたのも変わってない。結局軽量化に走るのは同じことだ。

マリア:歴史は繰り返すんですね。頭が痛くなってきました。

隼人:だがそう捨てたものではないぞ。基本設計はともかく、日本の基礎工業力が底上げされたおかげで、艤装ぎそう(取りつける装備品)は別物ってほど良くなってる。俺も前世の知識で入れ知恵したし。

マリア:兄さんの前世知識については「士官学校編」で語られますが、とりあえず何処が変わったのか教えてください。

隼人:一番重要なのは無線機だ。前世日本の戦闘機用無線機は性能が低く、ノイズばかりでろくに使えない(※「いや、ちゃんと整備すれば結構使えたぞ?」と言う証言もあり)。そのせいで編隊を組んだ連携プレーが極端に苦手だ。
 パイロットは常に後ろを見ながら戦う訳ではないから、味方から「狙われてるぞ!」と無線で教えてもらわないと、不意打ちを食らってあっけなく落とされる。
 実は〔ゼロ戦〕と〔ヘルキャット〕の性能差ですら、この問題に比べたら些末な話だ。
 こちらの日本製無線機は、電気技術の向上で別物と言って良い程の信頼性がある。

マリア:うーむ、「戦闘機の性能は戦力の決定的な差ではない」んですね。

隼人:お前もそっちネタに走るのな。

マリア:あくまで番外編ですから♪

隼人:まあいい(笑)。それから燃料が違う。史実の日本軍は90オクタン前後の燃料を使っていた。
 「オクタン」と言うのは、その燃料を使用したエンジンが誤作動(ノッキング)を起こしにくいかを示す単位で、大きい程ガソリンの純度が高いとされる。
 クロアで使用されている燃料は、ダバート王国製の100オクタン燃料なので、エンジンの設計は同じでも、多少エンジン内の圧力(ブースト圧)を上げて馬力アップしても誤作動は起こさない。
 つまり、燃料のおかげである程度無理をさせても大丈夫になったと言う事だ。その効能で、エンジン出力が増している。

マリア:でも、エンジンに無理をさせたら耐久力が落ちません?

隼人:まあな(汗)。そこは整備兵の教育に力を入れた事と、メンテナンス用の部品を多めに運び込んでおいた事で何とか補ってる。
 まあ、前世日本の工業力で同じことをすれば整備不良の飛行機が続出するので史実の日本軍がそのままやったら逆に弱くなるがな。

マリア:ふむふむ。他には?

隼人:プロペラだな。前世の〔ゼロ戦〕はアメリカ製の型落ちプロペラをコピーして使っていて、占領軍に「こんな古いの使ってたのか!」と驚愕された逸話があるが、こちらの日本は飛行機大国イギリスから技術供与を受けている。
 プロペラはエンジンの力を速度に変える重要な装備だから、これが良くなると様々な性能が向上する。最大速度とか、加速性能とか、航続距離とか

マリア:え? じゃあもっと遠くまで飛べるようになったんですか!?

隼人:いや、流石に〔ゼロ戦〕の場合それは無い。ブースト圧を上げたら当然燃費は悪くなるし、こちらの〔ゼロ戦〕はパワーアップしたエンジン出力を防弾と火力の強化に充ててるから、寧ろ機体が重くなって航続距離は減ってるな。それでも、外国の戦闘機に比べたら隔絶しとるが。

マリア:良かった! ちゃんと防弾装備が付いてるんですね。

隼人:史実の改良型である〔52型〕で追加された自動消火装置に加えて、陸軍の〔隼〕と同じ13mm厚の防弾板をコックピット後部に装備している。米ソ機の武装相手では十分とは言えないが、攻撃を受けた距離と角度次第でパイロットの死傷を防ぐ事が可能だ。
 燃料タンクも内部をゴムで覆って被弾した穴を埋めて火事を防いでくれる新型を装備しているぞ。

マリア:防弾タンクは兄さんのアイデアでしたね。

隼人:まあ、前世の受験勉強の合間に本で読んだ作り方をそのまま伝えただけだがな。俺の知識じゃそのまま再現は無理だが、「こうやって作る」とだけ伝えれば、開発期間の短縮くらいはできる。

マリア:武装の方はどうでしょう?

隼人:まず、史実の項目で挙げた「20mm弾がまっすぐ飛ばない」問題は改良によって解決してる。例によって俺の後付け知識だが。
 あと、〔ゼロ戦〕の武装は7.7mm機関銃と20mm機関砲の2門ずつだが、新設の兵部省が兵器の開発生産を一元管理するようになったおかげで、威力の弱い7.7mmを陸軍の12.7mm機関銃に取り換える事が出来るようになった。これで、すぐ弾切れになる20mm砲を撃ち尽くしても、ある程度の火力を維持できる。

マリア:でも、ゼタン工廠のテストパイロットが愚痴ってましたね。「武装を強化した〔ゼロ戦〕のコックピットは狭くて嫌だった」って。

隼人:日本機のコックピットは狭いからなorz。機首に取り付けた武装が大きくなったせいで、操縦席に突き出したわけだ(汗)。
 現在武装の配置を変えてコックピットを広くするために、エンジンカウル(エンジンの覆い)の形状を変更した改良型が投入された。
 そして、降臨暦944年現在、〔ゼロ戦〕はクロア動乱や箱舟戦争で活躍し、今まさに新型機への更新が行われている。史実と比べて幸せな退場になりそうだ。

マリア:ちょっとした工夫次第で活躍したり仇花として消えて行ったりするんですね。技術って簡単じゃないです。そこが面白いんですが。

隼人:あちらを立てたらこちらが立たず。幾ら前世の知識があっても、技術は手探りで進歩して行くものと言う本質は変わらない。
逆に言えば、「工夫してもっと良くしよう」を失わない限り、まだまだ人間はやれると俺は信じている。

マリア:深いお話しになった所で、今回は御開きにしましょう。さあ、次はどの飛行機のお話をしてもらいましょうか♪

はぁと

第2回に続く