早い話が、クロアでの内戦は、一神教の連盟国と多神教の条約国の代理戦争である。だから、連盟国の義勇兵は帝国派に、条約国の義勇兵は大公派に志願した。そもそも、”義勇兵”と言っても、彼らの殆どは職業軍人であり、給料も祖国が支援する陣営に送った支援金で支払われているので、義勇兵でも何でもない。

 連盟国の義勇兵は言う「あいつらは神聖なる竜神の教えを守らず、邪教を広めている。だから戦う」。
 条約国の義勇兵も言う「あいつらは俺達の信仰する神を奪おうとする。だから戦う」。
 これは間違いではない。連盟国の盟主であるゾンム帝国派は、属国の全てに竜神教、それもガミノ宗派への改宗を迫っているからだ。だが、全てを語っている訳ではない。
 何故なら、条約国の主要3国の内、クロアとダバートの2国が竜神教を国教としているからだ。勿論、彼らはお題目通り信教の自由は掲げてはいるが、ゾンムが掲げるガミノ宗派も先鋭化して多宗派を認めないと言い出したのはつい最近であり、欧州大戦終結からずっと続いているいがみ合いの説明にはならない。 では何が原因かと言うと、結局はカネである。
 ライズのダバート王国が日本と”門”で結ばれ、異世界貿易でが盛んになると、地球、ライズと共に2つの勢力に分かれた。イギリスを中心とした日本を上手く手懐けて利益を共有しようとする通商同盟と、米ソを中止とした門を国際管理にして日本から取り上げようと言う共和連合である。

「王立空軍物語」国際情勢

 純粋な軍事力はともかく、政治力・外交力はイギリスをブレーンに持つ通商同盟の方が強く、日本の門所有を認める「東京条約」が締結された。

 おかげで加盟国が門を使用する度日本に使用料が入るし、日本は事あるごとに通商同盟に便宜を図ろうとしてくる。
 共和連合はこれが面白くない。そして、共和連合と協力関係にあるゾンム帝国も面白くない。
 また、国内の改革やインフラ投資が滞っているゾンム帝国は、「国民が貧乏なのは異端者共が異世界貿易の利益を中抜きしているからだ」とゾンム教会が吹聴し始めた。戦争を煽りたいわけでは無く、敵を作った方がお布施が集まるからだが、不味い事に当局や貴族達も国民の不満を逸らすためこれを黙認した。

 気が付いた時には国民が異教徒討つべしの大合唱を始め、それに便乗した軍部が実権を握った。 人間は多少の理不尽は耐えられるが、その状況下で誰かが優遇される事に驚く程免疫が無い。人々は意図せずライズを二分する大戦争への未知を自ら舗装してしまっていた。クロア内戦は、その片鱗に過ぎない。

 ジョージ・パットン中将・・は、戦争の申し子である。
 欧州大戦で戦車部隊を指揮してから、塹壕を掘って長々と戦う事は無意味だと確信し、戦車の将来性について論文を書いている。
 優秀な者、勇気ある者は敵味方問わず称賛し、臆病者と認識した部下は病人であろうと鉄拳制裁あるのみ。将官でありながら最前線で指揮を執り、兵士に課す訓練はスパルタ仕様の厳しいものがデフォルトである。
 そんな彼だったから、クロアで苦戦する戦車部隊の立て直しを命じられてた時、喜色満面で快諾した。
 何しろ、戦争の無い時の彼は飲んだくれるわ娘の友人に手を出すわと割とアレな生活を送っていたから、相当にくすぶっていたのだ。
 戦争が出来ると知った彼は、人が変わったようにきびきびと荷物を纏め、義勇兵の名目でライズ入りした。門を通る際には日本サイドからあれこれと言いがかりをつけられて足止めを食らったが、彼らとて強い事は言えず、ゾンム帝国経由でクロアに着任した。

 戦車兵達の訓練風景を一瞥した感想は「なっちゃおらん」の一言だった。
 帝国派の戦車運用は、初戦の戦訓から平押しから一転突破や側面攻撃と言った機動戦術にシフトしている。だが、自分が育てたアメリカ本国の戦車兵と比べ、部隊間の連携が甘い。これは、米国製の〔シャーマン〕とソ連製〔T34〕の特性の違いを理解していないせいであると看破した。
 一見、〔シャーマン〕戦車の性能は〔T34〕に見劣りするように見える。だから、帝国派の兵士たちは走攻守に優れた〔T34〕を好む傾向にある。
 だが、〔T34〕は車内が狭く、指揮を執る車長が砲手を兼ねる。つまり、狙いをつけながら指示も出さねばならず、専門の装填手を乗せて車長が指揮に専念できる〔シャーマン〕に比べ、即応性や柔軟性に大きく劣る。
 上がってくる訓練結果に目を通せば、視界が狭く歩兵の待ち伏せに弱い。小回りが利かない等の弱点もボロボロと出てきた。
 〔シャーマン〕も弱点はある。〔T34〕と比べ時速にして20Km近く鈍足なのである。これは〔シャーマン〕の機動力が悪いのではなく、〔T34〕が速すぎるからなのだが、これを纏めて投入すれば、当然速度差から連携が甘くなる。
 兵器のスペックばかりに目を向けているとこう言う事になる。パットンはスペックに劣るが使いやすい〔シャーマン〕と、走攻守共に最強レベルでも粗が目立つ〔T34〕をどう組み合わせるかを考えねばならなかった。

「転生者だと?」

 戦車の横に置いたテーブルで、ああでもないこうでもないとノートに書きつけるパットンに、休憩を勧めた参謀が振って来た世間話に首を傾げた。彼はアメリカから連れてきた情報畑で、現地事情に明るい為に色々と重宝している。

「ええ、地球では仏教の概念ですが、竜神教では常識となっています。ゾンムの上層部の中に『未来の地球から転生した者が条約軍の改革をアドバイスしている』と信じている者がいるとかで」

 戦場ではちょっとした不安や願望から、下らない風評が広がりやすい。パットンはその類だろうと判断して、ふんと鼻で笑った。

「そんな人間が居るものか。もし前世なんてものがあるなら、俺はさしずめハンニバルの生まれ変わりだ」

 パットンとしては「イタリアが支援する半島国家」であるクロアを南進する自分を、古代の名将に例えた冗談だったのだが、大勢の兵士たちが行きかう中で言ったのは失敗だった。
 これを聞いていた兵士が「うちの司令は自分がハンニバルだと本気で信じているらしい」と面白半分に噂し始めたのだ。
 ゾンムでもクロアでも、芸術とも言えるハンニバルの包囲戦術は教本に載っているし、「戦車兵に機動戦術の成功例としてハンニバルについて教えておけ」と士官たちに命じたのは他ならぬパットン自身である。
 あろうことかこの噂は現地に派遣された記者を通じてアメリカ本国にも伝わり、「パットンは痛い人」と言う風評被害が吹き荒れる事になる。
 もっとも、これらの嘲笑は、すぐに歓声へと変わる事になるのだが。