今日の映画鑑賞『エド・ウッド』(萩原優)
『エド・ウッド』の概要

ことは:西城寺ことはです。という訳で仕切りなおして第一回よ!

真:アシスタントの宮藤真です。
ことは:この記事は創作集団『王立銃士隊』のコンテンツよ。詳しい話は前回の投稿で語っているから、そちらをどうぞ。それから当然ながらネタバレを含むから、避けたい方はブラウザバックして、どうぞ。
真:で、記念すべき第1回だけど、『エド・ウッド』って誰?
ことは:伝説の監督よ。この映画はエド・ウッドを強くリスペクトしているティム・バートン監督が撮ったエドの一代記ね。
真:ティム・バートンは知ってるよ。『バットマン』とか『ダンボ』とか。「伝説の監督」って、そんなに凄い作品を撮ってるの?
ことは:そうね。『プラン9・フロム・アウタースペース』とか『グレンとグレンダ』とか。脚本なら『死霊の盆踊り』とか。

真:全部知らないんだけど。最後のはタイトルだけ聞いたことがあるような……。
ことは:そりゃそうよ。全部Z級のクソ映画だもの。
真:ええっ! そんな人が主役なの!?
ことは:そう、エド・ウッドはその人ぞ知る伝説のクソ映画監督なのよ。演じているのは後に『パイレーツ・オブ・カリビアン』で大ブレイクするジョニー・デップだけどね。
真:なんと言うか……勿体なくない?
ことは:ジャック・スパロウの口八丁手八丁で相手を丸め込むうさんくさい魅力は、エドが源流だったりしたら面白いかもね。違うと思うけど。

真:ことはとそっくりじゃないか。
ことは:いやねえ。褒めても何も出ないわよ?
真:褒めてないから。
ことは:ちなみにこの記事を書いているはぎわらがエド・ウッドを知ったのは、何年か前にZ級映画、つまりB級に分類するのが失礼なくらい酷い映画を紹介する動画が流行ってね(現在は公開終了しています)。『プラン9・フロム・アウタースペース』を紹介していたわけだけど……。
真:わけだけど?
ことは:感想は「紹介動画に抜粋されてるだけなのに、何故ここまで見ていて苦痛なのか?」と言うアレでソレだったそうよ。
真:逆に興味湧くんだけど。
ことは:じゃあ、冒頭だけ見てみる?
(少年視聴中)

真:ごめん。もう勘弁して……。
ことは:まあ、そうなるわね。ちなみに、私たち一般人が見ればこんな感じの反応だけど、百戦錬磨のZ級映画ファンからするとエド・ウッド作品ぐらいならクソ映画と呼ばないそうよ。
真:知りたくない世界だよ。
エド・ウッドの物語
ことは:時は1950年代のハリウッド。アメリカンドリームを追って多くの若者がこの街にやってくるわけだけど、主人公エドもまた名監督オーソン・ウェルズに憧れる映画青年だったわ。
真:オーソン・ウェルズ? 『宇宙戦争』のラジオでパニックを起こした人だよね?
ことは:それガセみたいよ? まあ、昔の映画見ない人はそんな感じよね? オーソンは25歳にして『市民ケーン』を送り出して、マスゴミのネガティブキャンペーンを内容の素晴らしさだけで跳ね返し、現在でもアメリカ最高峰の監督に数えられる人よ。
真:あ、そのタイトルは聞いたことあるかも。

ことは:雑な例えだけど、野球選手にとってのベーブ・ルース、漫画家にとっての手塚治虫、コメディアンにとってのチャップリン、ウクレレ演奏家にとっての高木ブーみたいな人生をかけて追い求めるレジェンドよ。ここ重要だから覚えておいて。
真:それは分かったけど、最後何?
ことは:レジェンドかどうかは分からないけど、彼がウクレレ演奏家として高い評価を受けているのは確かだから。
真:ノリだけで言ったくせに。それで、エドは監督になれたの?
ことは:そんな甘いもんじゃないわ。それまでは大作映画との抱き合わせで低予算映画が大量に作られていたんだけど、法律的な話とか色々あって大手映画会社はB級映画から手を引いた、つまり監督の枠が減っていたのね。そんな状況なのに業界の下働きがそうそう監督なんてできないわ。女装を題材にした映画を撮るのに女装癖ありますなんてアピールしてたけど。
真:え? 女装癖?
ことは:現代の日本だったら問題とされない性的嗜好だったかもね。コミケとかに女性キャラのコスプレしてる人いるでしょ?
真:まあ、その話はいいや。ならどうしたの?
ことは:ある日、エドが出会った老人はかつての大スター、ベラ・ルゴシだったの。彼はホラー映画の吸血鬼役で一世を風靡したんだけど、流行り廃りのせいで仕事を失って薬物に手を出し、ひっそりと生きていたのね。最初は大はしゃぎで大スターとの会話を楽しんでいったエドだけど、ふと考えがよぎるの。「ルゴシと組んでB級映画を売り込めば、メガホンを取る事が出来る!」って。こうして名もなき映画青年とかつての名優がタッグを組むの。
真:おお、それで2人の大逆転が始まるんだね!? 燃える展開じゃないか!
ことは:……逆転しないわ。
真:えっ?
ことは:エドには人やお金を引っ張って来る事は出来ても、監督としての能力は残念ながら無いもの。もしかしたら映画会社の営業とかなら成功したかもしれないけれど、それじゃエド本人が満足できないでしょうね。
真:それじゃあ……。

ことは:作る映画全てが大不評。ある時は映画会社から三下り半を突きつけられ、またある時は試写会をブーイングで追い出され……。
真:ああ……。
ことは:でもエドはあきらめないの。諦めると言う発想も無かったんでしょうね。彼は誰よりも映画が好きで、好きで好きで好きでたまらなかったから。
真:なら今度こそ転機が……。
ことは:ないわ(きっぱり)。2人の当たって砕け続ける挑戦は、ルゴシの死で終わりを告げるの。
真:ちょっ! それあまりにも救いが……。
ことは:ここからが名監督ティム・バートンの腕の見せ所よ。
映画馬鹿の映画馬鹿による映画馬鹿への応援歌
ことは:病院で衰弱しきったルゴシは、エドに言うの「エド、また映画に出たいよ」って。
真:……っ!
ことは:マーティン・ランドー演じるルゴシの言葉と、それを受けたジョニー・デップ演じるエドの表情。このやり取りだけでも、チケット代を払う価値があるわ。
真:……。
ことは:ルゴシもまた、映画が好きでたまらない映画馬鹿だったの。これははぎわらの解釈だけど、ルゴシはエドに目がない事を分かっていたし、エドもルゴシに未来が無いことも分かっていた。でも見切りをつけたとしてほかに道は無いわけよ。そして、2人はお互いを映画人として好きになりすぎていた。
真:なんだか、切ないよ。2人とも映画が大好きなのに。
ことは:それがエド・ウッド監督が愛される理由なのよ。確かに彼は監督としての力量はZ級だけど、映画への愛情は超A級だったの。上に挙げたZ級映画の紹介動画でも「エド・ウッド作品は嫌いだけど、エド・ウッド本人は大好き」って言ってるわね。
真:だけど、このままじゃあまりにも……。
ことは:現実のエドは、この後何作も映画を作るんだけど全く評価されず、映画への情熱も無くしてひっそりと亡くなるわ。その後80年代に彼の人柄と作品が知られるようになって有名な(クソ)映画監督に数えられるようになるわけだけど。
真:ううっ……。
ことは:救いだったわよね? この後のエピソードはオリジナルだけど、ティム・バートンが如何に映画とエド・ウッドを愛しているか伝わって来るわ。ある日、ルゴシを失ったエドは、バーで原稿を書いている一人の映画人に出会うの。彼が長年憧れた雲の上の人物よ。
真:ひょっとして、オーソン・ウェルズ?
ことは:そう、その時のエドは女装していて、色々あって酷い状態だったけど、そんなへんた……個性的な彼を一瞥したオーソンはどう接したと思う?
真:えーと、普通に考えたらドン引きだよね?
ことは:オーソンはエドのいで立ちに一切触れず「映画人なら折れるな、やりたいようにやれ」と言うアドバイスをするだけど、その台詞は「後進」に対するものじゃないの。「同じ映画人」としてのアドバイスなのよ。メガホンをとった以上、作品の評価や売り上げで優劣はつく。でも映画人であることにおいては自分とエドは対等である。そんな風に接したのよ。あーあ、私も松下幸之助とか本田宗一郎にそんなこと言われてみたいわ。
真:ことはは既に折れてないしやりたいようにやっているでしょ? でも、それがエドにとっての救いだったんだね。
ことは:そうね。奮起したエドが撮影に臨んだところで物語は終わるわ。この映画はティム・バートンの「映画が大好きだ」って気持ちが籠った1作だったわね。売れっ子監督の彼が、売れずに死んだエドをここまでリスペクトするのは、彼が才能も何もないのに「好きだ」って気持ちだけで走り続けたからじゃないかしら。「同じ映画人」としてね。
真:なるほど、なんかモノづくりをする上でとても大切な事を教わったよ。はぎわらが第一回にこの作品を選んだ理由も良くわかった。
ことは:まだよ。
真:えっ?
ことは:せっかく映画に興味を持ったんだから真も見てみましょうよ。はい、DVDとポップコーンとコーラ。
真:そうだね。僕もルゴシの死やオーソン・ウェルズとのやり取りを見てみたいよ。
ことは:エドの作品もあるわよ? どっちが先に寝るか耐久レースとかやる?

真:ごめん、そっちは良い。
ことは:最後に配信している動画サービス一覧を載せておくので、読者の皆さんも是非鑑賞所てみて頂戴。解説では割愛したけど、エドのうさんくさい仲間たちや、恋愛話なんかも出てきてとても面白い映画よ。損はさせないわ♪